マルティヌス1世 (ローマ教皇)

マルティヌス1世（生年不詳 - 655年9月16日）は、第74代ローマ教皇として649年7月5日から653年まで在位しました。カトリック教会と正教会で聖人として崇敬され、カトリック教会における記念日は4月13日です。日本では、聖マルティノ一世、聖マルチノ1世教皇殉教者とも呼ばれています。

彼の教皇在位期間は、東ローマ帝国との宗教的対立が激化した時代でした。特に、キリストの神性と人性がどのように結びついているかという教義を巡る論争が、政治的な対立と深く結びついていました。

マルティヌス1世は、東ローマ皇帝コンスタンス2世が提唱した「両性単意論」に強く反対しました。この論は、キリストには二つの性質（神性と人性）があるものの、意志は一つであると主張するものでした。マルティヌス1世は、この教義を異端とみなし、649年に開催されたラテラン教会会議において、これを断罪しました。

皇帝コンスタンス2世は、この決定に激怒しました。彼は、自身の権威を無視した教皇の行動を許さず、653年、ラヴェンナ総督府によってマルティヌス1世を捕縛しました。教皇はコンスタンティノープルへ連行され、裁判にかけられました。裁判の結果、マルティヌス1世は犯罪者として扱われ、クリミア半島のケルソンに流刑となりました。

ケルソンでの流刑生活は過酷を極め、マルティヌス1世はそこで亡くなりました。彼の死は、教義上の対立が政治的な弾圧に繋がった象徴的な出来事として記憶されています。マルティヌス1世の逮捕と流刑は、7世紀半ばにおいても、コンスタンティノープルの皇帝の権威と権力が西方教会にまで及んでいたことを示す事例として、歴史的にも重要な意味を持っています。

マルティヌス1世の生涯は、宗教的な信念を貫いた殉教者としての側面を持つ一方で、当時の東ローマ帝国の政治的な影響力、そして宗教と政治が複雑に絡み合っていた状況を如実に示しています。

関連事項

単性論：キリストには神性のみがあり、人性はないとする説。
単意論：キリストには神性と人性があるが、意志は一つであるとする説。
* 聖マクシモス：マルティヌス1世と同様に、単意論に反対した神学者。

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