ラヴェンナ総督府

ラヴェンナ総督府（ラテン語: Exarchatus Ravennatis）は、東ローマ帝国がイタリア半島を統治するためにラヴェンナに設置した政府機関であり、イタリア総督府とも呼ばれました。584年に設立され、751年にランゴバルド人によって滅ぼされるまで、約170年間存続しました。この総督府は、ユスティニアヌス1世が西方の統治を効率化するために設置したもので、アフリカ総督府と並び、帝国の西方における重要な拠点でした。

背景

402年、西ローマ皇帝ホノリウスは、首都をローマからラヴェンナに移しました。ラヴェンナはアドリア海に面した良港であり、周囲は沼沢地で守られていたため、防衛に適していました。476年に西ローマ帝国が滅亡した後も、オドアケルや東ゴート王国のテオドリクスがラヴェンナを首都としました。

ゴート戦争中の540年、東ローマ帝国の将軍ベリサリウスがラヴェンナを占領し、イタリア統治の拠点としました。当時の東ローマ帝国は、ディオクレティアヌス帝が整備し、オドアケルや東ゴート人も利用した道制度を踏襲していました。

ランゴバルド人の侵攻と総督府の成立

568年、アルボイン率いるランゴバルド人が北イタリアに侵攻しました。当時、イタリアは20年近く続いたゴート戦争によって荒廃しており、東ローマ軍の抵抗は弱く、569年にはミラノが陥落しました。572年にはパヴィーアが陥落し、ランゴバルド王国の首都となりました。その後、ランゴバルド人は中央イタリアや南イタリアを征服し、スポレート公国とベネヴェント公国を建国しました。

しかし、572年にアルボインが、574年にクレフが暗殺され、ランゴバルド王国の勢いが一時的に衰えました。東ローマ帝国のユスティヌス2世は、娘婿のバドゥアリウスをイタリアに派遣しましたが、ランゴバルド人に敗れて戦死しました。バルカン半島も混乱しており、東ローマ帝国はイタリアに注力できなくなりました。580年、ティベリウス2世はイタリアの大部分を失ったことを認め、イタリアを5つの州に分割しました。ラヴェンナには総督府が置かれ、総督はラヴェンナ市とその周辺地域の行政、軍事、教会管理の権限を与えられました。

総督府の概要

ランゴバルド人が内陸部を制圧したため、東ローマ帝国の勢力は海岸沿いの都市に限られました。これらの地域を統治したラヴェンナ総督は、コンスタンティノープルの皇帝の代理としての役割を担いました。総督の直接の統治領域は、アペニン山脈の東側に広がっていました。その他の地域では、ドゥクスやマギストリ・ミリトゥムがより強い権限を持っていました。名目上は、イタリア半島全体がラヴェンナ総督府の管轄下にありました。シチリア島は独自の政府を持ち、コルシカ島やサルディーニャ島はアフリカ総督府が統括しました。

パヴィーアを首都とするランゴバルド王国は、ピエモンテ、ロンバルディア、ヴェネツィア本土、トスカーナ、カンパニア内陸部を支配し、640年にはリグリアから東ローマ帝国の勢力を駆逐しました。ナポリやカラブリアの東ローマ帝国領もベネヴェント公国によって少しずつ奪われ、ローマでは教皇が実質的な支配者となりました。教皇とラヴェンナ総督は、対立と協力を繰り返しました。教皇はローマにおける帝国への不満を緩和するために利用される一方で、教皇やローマ元老院は、総督を外部からの介入者として疎みました。

総督府の歴史は、皇帝による集権的な統治からヨーロッパ封建制への移行期にあたります。コンスタンティノープルの皇帝の努力にもかかわらず、総督などの役人は世襲化し、地域の土地所有者や支配者に変質していきました。ランゴバルド人に対する防衛のために徴募された兵士は、次第に中央から独立した常備軍となり、中世イタリア都市国家の市民軍の先駆けとなりました。

終焉とその後

6世紀から7世紀にかけて、ランゴバルド人やフランク人の脅威が増大し、イコノクラスムをめぐるローマ教皇と東ローマ皇帝の対立が深まる中で、ラヴェンナ総督府の立場は不安定になりました。727年、皇帝レオーン3世が教皇グレゴリウス2世の殺害を命じた際、総督パウルスが失敗し、反乱軍によって殺害されました。751年、ランゴバルド王アイストゥルフがラヴェンナを占領し、総督府は滅亡しました。これにより、ローマ教皇は東ローマ帝国からの自立を強めました。

フランク王ピピン3世は、教皇ステファヌス2世の要請を受け、756年にランゴバルド王国を破り、旧ラヴェンナ総督領を教皇に寄進しました。このピピンの寄進は、774年にカール大帝によって拡充され、教皇領が成立しました。ただし、ラヴェンナ大司教は東ローマ帝国以来の特権と独立教会の地位を保ちました。

ラヴェンナ総督府の滅亡と教皇の独立により、ユスティニアヌス1世時代に獲得された東ローマ領イタリアはそのほぼすべてが失われました。総督府滅亡後、南イタリアの東ローマ帝国領はバーリのカテパノの統括下に入り、9世紀にシチリアがアラブ人に征服されると、テマ・カラブリアとテマ・ランゴバルディアに再編されました。

ラヴェンナ総督の一覧

デキウス (584–585)
スマラグドゥス (585–589)
ロマヌス (589–596)
カッリニクス (596–603)
スマラグドゥス (再任、603–608)
ヨハネス1世 (608–616)
エレウテリウス (616–619)
イサキウス (625–643)
テオドルス1世カッリオパス (643–645)
プラト (645–649)
オリュンピウス (649–652)
テオドルス1世カッリオパス (再任、653 – c. 666)
グレゴリウス (c. 666)
テオドルス2世 (678–687)
ヨハネス2世プラトゥス (687–702)
テオフィラクトゥス (702–710)
ヨハネス3世リゾコプス (710–711)
スキオラスティクス (713–723)
パウルス (723–727)
エウティキウス (727–752)

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