コンスタンス2世

コンスタンス2世（630年 - 668年）は、東ローマ帝国ヘラクレイオス王朝の皇帝であり、その治世は激動の時代でした。本名はフラビオス・ヘラクレイオスといいましたが、後にコンスタンティノスと改名、「コンスタンス」は「小さなコンスタンティノス」を意味し、「ポゴナトス」は「髭が生えている」というあだ名です。また、「コンスタンティノス4世」と呼ばれることもあります。

即位と初期の混乱

641年、コンスタンス2世は、父であるコンスタンティノス3世の死後、わずか11歳で共同皇帝として即位しました。しかし、異母兄弟のヘラクロナスとの間で皇位をめぐる争いが勃発。幼少であったため、当初は元老院や舅のウァレンティノスが実権を握っていましたが、混乱の中、コンスタンス2世は単独皇帝となりました。

イスラーム勢力との戦い

コンスタンス2世の治世は、イスラーム勢力との戦いに明け暮れました。初期には、帝国艦隊が一時的にシリア沿岸部やエジプトのアレクサンドリアを奪回しましたが、維持には失敗。646年にはエジプトから完全撤退を余儀なくされました。また、叔父のグレゴリオスの反乱も鎮圧しましたが、その過程でイスラーム勢力の侵攻を許すことになります。

650年代に入ると、イスラーム艦隊の地中海進出が激化。コンスタンス2世は自ら艦隊を率いて戦いに挑みますが、655年のリュキア沖海戦で大敗を喫しました。しかし、イスラーム勢力内部での内戦が勃発したため、一時的に沈静化しました。

西方への遠征と統治

東方での状況が一段落すると、コンスタンス2世は西方での状況改善に注力しました。658年にはバルカン半島のスラブ人居住区に遠征を行い、捕虜を小アジアに移住させ人口減少の補填策をとっています。その後、663年には南イタリアに上陸し、ローマ教皇ウィタリアヌスと会見しましたが、すぐにシチリア島シラクサに移動。シラクサを拠点として、西方の支配再編を試みました。

コンスタンス2世は、シチリア島で新たな税を賦課し、艦隊を新設しました。これは、アフリカ方面へのイスラーム勢力の圧力を背景に、後方からの反撃を目的としたものでした。しかし、これらの政策は帝国軍内部の不満を高めることになります。

暗殺と宗教政策

668年、コンスタンス2世は、入浴中に中央軍長官ミジジオスの陰謀によって暗殺されました。同時に、小アジアでもサボリオスの反乱が勃発。これは彼の統治が不安定であったことを示しています。

宗教政策では、ヘラクレイオスが発布した「エクテシス」に代わり「テュポス」を発布しましたが、これもローマ教会からの強い反発を受けました。そのため、コンスタンス2世は653年にローマ教皇マルティヌス1世を逮捕し、追放しています。

帝国の防衛システム

コンスタンス2世の時代には、小アジアにおける対イスラーム防衛システムが徐々に整備されていきました。これが後のテマ制度へと発展していくことになります。

コンスタンス2世の治世は、東ローマ帝国にとって、イスラーム勢力との戦いが激化し、地中海世界の勢力図が大きく変わる転換期でした。彼の政策や行動は、後の東ローマ帝国の歴史に大きな影響を与えたと言えるでしょう。

関連書籍

* 小林功『生まれくる文明と対峙すること-7世紀地中海世界の新たな歴史像-』ミネルヴァ書房、2020年。ISBN 978-4-623-08769-3。

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