マルティン・ルターとカタリナ・フォン・ボラの肖像

マルティン・ルターとカタリナ・フォン・ボラの肖像

ルーカス・クラナッハ（父）の工房によって制作された『マルティン・ルターとカタリナ・フォン・ボラの肖像』は、ドイツ・ルネサンス期の重要な作品です。この一対の油彩肖像画は、それぞれ縦37センチ、横23センチの板に描かれ、1529年の制作年と署名が記されています。この作品は、少なくとも1666年以降、メディチ家のコレクションに収蔵されており、1724年には二つの作品が繋げられていたと記録されています。現在は、イタリア・フィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されています。

歴史的背景

ルーカス・クラナッハは、マルティン・ルターと同じく宗教改革者であり、ルターの肖像を数多く描きました。クラナッハは、ルターの肖像において、その農民的な風貌とプチブルジョワ的な表情を隠すことなく忠実に描写しています。クラナッハは、宗教改革の英雄ルターと彼の妻カタリナ・フォン・ボラを題材とした小さな板絵を複数制作しており、初期の作品は、二人が結婚して間もない1525年にバーゼルで描かれた二枚の円形画です。その後も1526年と1528年にも肖像画が描かれました。これらの作品は、ポーズや形式の点で共通していますが、本作では、人物の老いの始まりを通して、真実を追求する姿勢がより強調されています。本作におけるルターの顔立ちは、3年前に制作された肖像画と比較して、より肉付きがよくなり、無精ひげがなくなっている点が特徴的です。一方、妻カタリナの肖像は、3年前の肖像と比較しても大きな変化は見られません。

作品の特徴

ルターは、黒一色の幅広で首まで覆う衣服を身につけ、同じく黒の帽子を被っています。この服装によって、肖像画の主人公である彼の顔が帽子と服で囲まれ、非常に表情豊かに表現されています。一方、妻のカタリナは、より身体にフィットした服と毛皮の外套を身につけており、その服装は富裕層の衣装であることを示しています。彼女はまた、ルターとの結婚を示唆する簡素な網状の頭巾を被っています。

この作品において、画家は肖像画に対する革新的なアプローチを見せています。それは、均一な青色の背景の中で、輪郭線に重点を置いた線描への嗜好として表れています。また、これらの肖像画が二連画の形式であることは、描かれた人物たちの精神的なつながりを具体的に表現する上で効果的でした。ウフィツィ美術館には、本作品と同様の様式で制作された『マルティン・ルターとメランヒトンの肖像』も所蔵されています。この作品もまた、ルターと彼のヴィッテンベルク時代の親友フィリップ・メランヒトンを、対面する二連画の形式で描いています。これらの作品群は、クラナッハの肖像画における革新性と、ルターとその周辺の人々の人間性を捉えた重要な芸術作品として、今日でも高く評価されています。

参考文献

『クラーナハ展500年後の誘惑』、国立西洋美術館、ウィーン美術史美術館、TBS、朝日新聞社、2016年刊行　ISBN 978-4-906908-18-9
Gloria Fossi, La Galerie des Offices, Giunti, Florence, 2004. ISBN 88-09-03675-1

外部リンク

* Web Gallery of Artサイト、ルーカス・クラナッハ『マルティン・ルターとカタリナ・フォン・ボラの肖像』 (英語)

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