マルトゥニ地区

マルトゥニ地区の変遷

マルトゥニ地区は、かつてアゼルバイジャン領ナゴルノ・カラバフに存在した地区であり、現在のアルツァフ共和国（旧ナゴルノ・カラバフ共和国）が実効支配していました。中心都市はマルトゥニ（アゼルバイジャン語名：ホジャヴェンド）です。

地理と位置

アルツァフの東部に位置し、北と東をアゼルバイジャン、南をハドルト地区、西をアスケラン地区と接していました。しかし、その一部はアゼルバイジャンに実効支配されており、アルツァフは領有権を主張していました。

歴史的背景

この地区は、旧ナゴルノ・カラバフ自治州に同名の地区として存在していました。第一次ナゴルノ・カラバフ戦争を経て、アグダム県の一部を占領し領域を拡大しましたが、2020年の紛争で東部・南部を失い、アグダム県地域をアゼルバイジャンへ返還しました。2023年にはアルツァフが降伏し、全域がアゼルバイジャン領となりました。

人口と面積

2020年紛争以前の面積は951.2平方キロメートル（一部資料では1,098.33平方キロメートル）でした。人口は21,300人で、首都ステパナケルト特別市に次いで多かったとされています。

歴史

マルトゥニ地区は、元々アゼルバイジャン・ソビエト社会主義共和国内のナゴルノ・カラバフ自治州に設置されていました。1991年9月2日、自治州がナゴルノ・カラバフ共和国として独立を宣言した後、改めてマルトゥニ地区が発足しました。しかしアゼルバイジャン政府は同年11月26日に自治州を廃止し、マルトゥニ地区とハドルト地区を合併してホジャヴェンド県としました。

1991年11月20日には、カラケンドでソ連軍ヘリ撃墜事件が発生しました。アルメニア人勢力は北のアグダム県を占領し、マルトゥニ地区とアスケラン地区に編入しましたが、旧マルトゥニ地区全域を支配下に置くことはできず、東部がアゼルバイジャン領として残りました。

2020年のナゴルノ・カラバフ紛争で地区南部がアゼルバイジャン軍に占領され、停戦協定によりアグダム県がアゼルバイジャンへ返還されました。2023年の紛争では、地区南部の住民がロシア平和維持部隊の基地へ避難し、アルツァフが降伏したことで全域がアゼルバイジャン領に復帰しました。マルトゥニ地区は実質的に消滅しましたが、名目上は行政長官が公務を続けています。

地理

地区西部は丘陵地帯であり、東部は標高1200mから1500mほどの山岳地帯です。マルトゥニ周辺の低地部は乾燥した亜熱帯気候で、降水量は少ないです。

都市と村

2020年1月時点で、2つの都市と33の農村共同体が所属していました。主な都市としてチャルタルとマルトゥニ（ホジャヴェンド）があります。

住民

2020年1月1日時点の法定人口は21,300人で、総人口の14%を占めていました。住民のほとんどはアルメニア人です。アルツァフの支配下になる前はアゼルバイジャン人も居住していましたが、第一次ナゴルノ・カラバフ戦争の際にほとんどが脱出しました。

経済

農業が主要産業であり、穀物、ブドウ、果樹の栽培、畜産業が盛んです。アルツァフの穀物総生産の24.2%、ブドウ総収穫量の58.9%を占めていました。特にブドウを使ったワイン造りが盛んで、「アルツァフ・シャンパン」は国内外で有名です。2002年にはLusakert養鶏工場が操業を開始しました。

観光地

地区内には多くの古代の記念碑が残されています。4世紀ごろに建てられたアマラス修道院、樹齢2千年を超えるスズカケノキのTnjri、国内で最も高い記念碑などがあります。

このように、マルトゥニ地区は歴史的、地理的、そして政治的に複雑な背景を持つ地域であり、その変遷はナゴルノ・カラバフ紛争の歴史を象徴しています。

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