マルヨ無線事件

マルヨ無線事件とは

1966年12月5日、福岡県福岡市下川端町（現在の博多区下川端町）にあった家電量販店「マルヨ無線 川端店」で発生した強盗殺人・放火事件です。この事件は、店舗に侵入した元店員とその知人によって引き起こされました。

事件の概要

事件当日深夜、元店員の男O（当時20歳）と少年（当時17歳）は、強盗目的でマルヨ無線川端店に侵入しました。店内で宿直勤務をしていた店員2名をハンマーで殴打し重傷を負わせ、現金と腕時計を奪いました。その後、犯行の発覚を恐れた元店員Oが、証拠隠蔽のために石油ストーブを蹴り倒して放火。店員2人のうち1人は自力で脱出しましたが、もう1人は逃げ遅れ焼死しました。

事件発生から数日後、共犯の少年が出頭。その後、元店員Oも逮捕されました。事件の舞台となったマルヨ無線川端店は事件後閉鎖され、跡地は現在、商業施設「博多リバレイン」となっています。マルヨ無線は他にも店舗を展開していましたが、現存する店舗はありません。

事件の背景

元店員Oは、マルヨ無線でアルバイトをしながら専門学校に通っていました。卒業後、正社員として採用されましたが、店の商品であるラジオを盗んで質入れを繰り返していたことが発覚し、解雇されました。さらに、警察に通報されたり、無断で部屋に侵入されローンで購入したステレオを持ち去られたりするなどのトラブルが重なりました。窃盗の非行事実により保護観察処分となり、その後別の電気店に就職しましたが、ここでも窃盗を繰り返し、少年院に入所しました。少年院で知り合った少年（共犯者）に、マルヨ無線川端店の強盗計画を打ち明けたとされています。

出所後、スピード違反の反則金に困った元店員Oは、強盗計画を実行に移しました。裁判で少年は、元店員Oが「店員を殺して証拠隠滅のため放火する」という計画だったと証言しましたが、元店員Oは強盗計画のみだったと主張しています。

刑事裁判

元店員Oと少年は、強盗殺人罪と現住建造物等放火罪で起訴されました。福岡地方裁判所は、元店員Oに対し死刑判決を言い渡しました。

• - 福岡地裁は、犯行動機を「元勤務先への恨みと金銭欲」と認定。
• - 元店員Oは、動機について「一面もあったが説明不十分」と反論。
• - 福岡高等裁判所は、一審の死刑判決を支持し、控訴を棄却。
• - 最高裁判所は、上告を棄却し、元店員Oの死刑が確定。
• - 共犯の少年は懲役13年の判決が確定。

元店員Oは、一貫して放火を否定しています。警察の取り調べで、ストーブ転倒が原因と誘導され、嘘の自白をしたと主張しています。

再審請求

死刑確定後、元店員Oは一貫して冤罪を訴え、複数回の再審請求を行っています。

• - 1973年から1979年にかけて、福岡地裁に4度の再審請求を行うも棄却。
• - 日本弁護士連合会が支援し、1979年に5度目の再審請求を行う。
• - この際、消防士や警察官が「ストーブが人為的に倒された形跡はない」と証言するも棄却。
• - 1994年には、ストーブの検証実験が行われ、容易には倒れないことが判明。
• - 福岡高裁は、この検証結果を新証拠と認めず、再審請求を棄却。
• - 最高裁判所は、検証結果を認めつつも、放火の事実を覆す証拠にはならないとして、特別抗告を棄却。
• - その後も再審請求を繰り返すが、いずれも棄却。
• - 2013年7月に7度目の再審請求を提起。現在も審理中。

死刑囚として

元店員Oは、死刑確定から50年以上が経過しましたが、現在も死刑は執行されておらず、福岡拘置所に収監されています。死刑囚としては最古参です。

• - 弁護士は、死刑執行が長引いている理由として、事件当時の年齢と再審で放火が無罪になる可能性を指摘。
• - 獄中では、他の死刑囚の執行や病死、自殺を見届けてきた。
• - 毎日、死刑執行の恐怖を感じながらも、自由になったら三輪スクーターで日本一周巡礼の旅をしたいと考えている。
• - 紙袋作りなどの内職や、新聞記事、読書、音楽鑑賞などで日々を過ごしている。

事件の背景にある問題

マルヨ無線事件は、冤罪の可能性、自白の強要、再審制度の課題など、司法における様々な問題を提起しています。特に、死刑囚の高齢化が進む中で、速やかな再審の実現が求められています。

まとめ

マルヨ無線事件は、強盗殺人・放火事件として発生し、死刑が確定したものの、その判決には多くの疑問が残されています。死刑囚の高齢化が進む中、司法のあり方が改めて問われています。

この事件は、日本の刑事司法制度における深い闇を映し出す鏡とも言えるでしょう。冤罪の可能性、再審制度の課題、そして死刑制度の問題など、様々な視点からこの事件を捉え直す必要があると考えられます。

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