現住建造物等放火罪

現住建造物等放火罪：詳細解説

現住建造物等放火罪とは、人が居住している建物や、人がいる建造物（建物、車両、船舶、鉱山など）を放火によって焼損させる犯罪です（刑法第108条）。この罪は、具体的な危険の発生を要件とせず、行為自体に公共の危険性が内在するとみなされるため、抽象的危険犯に分類されます。

各構成要件の解釈

「現に人が住居に使用する」

これは、犯人以外の人が寝食などをする日常的な居住空間を指します。犯人だけが居住している場合は該当しません。

建物の一部だけが居住空間である場合、非居住空間への放火も現住建造物等放火罪に該当するかどうかは議論の的です。学説では、居住空間と非居住空間が機能的または物理的に一体であれば、生命・身体への危険性があるとして現住性を肯定する見解が有力です。

「現に人がいる」

犯人以外の人が放火現場に存在している状態を指します。居住者を全員殺害後に放火した場合、放火行為自体は非現住建造物等放火罪に該当します。

「建造物・汽車・電車・艦船・鉱坑」

建造物: 土地に定着した屋根と壁のある建築物で、人が内部に入れるものを指します。
汽車: 蒸気機関車牽引の軌道車両。
電車: 電力で軌道上を走行する車両。
艦船: 軍艦や船舶。
鉱坑: 鉱物採掘のための地下施設。

自動車や航空機への適用については議論があります。

「焼損」

「焼損」の解釈にはいくつかの学説があります。

独立燃焼説: 火が目的物に燃え移り、独立して燃焼を続ける状態。判例はこれを採用しています。
効用喪失説: 目的物の重要部分が焼失し、本来の機能を失う状態。
燃え上がり説: 目的物の重要部分が燃え始め、容易に消火できない状態。
毀棄説: 毀棄罪の基準を適用。

最高裁は、エレベーターの壁の一部(0.3平方メートル)の焼損でも本罪が成立すると判示しています。

法定刑

現住建造物等放火罪の法定刑は死刑、無期懲役、または5年以上の有期懲役です。殺人罪と同等の重罪で、これは建造物居住者の生命への危険性、延焼による多数への危険性、殺人罪の立証困難さなどを考慮したものです。日本の伝統的な木造家屋における延焼のしやすさも、重罰の背景にあります。戦後日本で唯一、死刑が確定した昭和郷アパート放火事件は、殺人罪や致死罪ではなく、現住建造物等放火罪で裁かれました。

その他

国外犯: 日本国外での犯行も日本の刑法が適用されます(属人主義)。
未遂・予備: 未遂と予備もそれぞれ刑法で処罰されます。
罪数: 1回の放火行為で複数の建造物を焼損した場合の罪数の取扱いについては、判例があります。例えば、現住建造物と非現住建造物を同時に焼損した場合、現住建造物等放火罪の包括的一罪となります。
他罪との関係: 他の犯罪との関係（殺人罪、傷害罪、詐欺罪、住居侵入罪など）については、競合や併合、牽連犯として扱われます。

関連事項

非現住建造物等放火罪
建造物等以外放火罪
放火と失火の罪

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