マローン (ギリシア神話)

マローン（古希: Μάρων）は、古代ギリシア神話に語られる人物である。その名は長母音を省略しマロンと記されることもある。出自については諸説が存在しており、一般的にはエウアンテースの子とされているが、酒神ディオニューソスあるいはその従者であるシーレーノスの子であるとする伝承も見られる。

彼はトラーキア地方に位置するキコネス人（あるいはキコーン人）の町、イストロスにおいて、太陽神アポローンに仕える神官を務めていた。マローンはアポローンを祀る神聖な森の近くに居を構えていたと伝えられている。また、彼は並外れて美味なブドウ酒を所有していることで知られていた。

神話におけるマローンの記述は、古代の様々な著述家によって異なる角度から語られている。

劇作家エウリーピデースは、そのサテュロス劇『キュクロープス』の中で、マローンをディオニューソスの子であり、シーレーノスによって養育された存在として描いている。アテーナイオスは、彼がディオニューソスの弟子であったと記しており、さらにノンノスによれば、マローンはディオニューソスが指揮したインドへの遠征に同行したとされる。

歴史家シケリアのディオドロスの伝えるところでは、マローンはエジプトの神オシーリス（しばしばギリシアのディオニューソスと同一視される）の門弟であり、オシーリスが世界各地を巡った際に彼に随行し、ブドウの栽培方法を世界に広めるという重要な役割を担ったとされている。年老いたマローンは、トラーキアの地に自らの名を冠した都市マローネイアを創建し、そこで農作物の栽培を奨励したという。

叙事詩『オデュッセイア』において、マローンはトロイア戦争からの帰還の途上にある英雄オデュッセウスと深く関わることになる。オデュッセウス一行はキコネス人の町イスマロスに立ち寄り、これを攻撃して占領したが、アポローンの神官であるマローンだけは丁重に保護した。この恩に報いるため、マローンはオデュッセウスに財宝と、自身の家族の中でごく限られた者しかその存在を知らなかった極めて貴重なブドウ酒を贈った。この特別なワインは、後にオデュッセウスがキュクロープス（単眼の巨人）が住む島を探検し、巨人ポリュペーモスの洞窟に囚われた際に、彼を危機から救うための鍵となる。オデュッセウスはマローンから贈られたブドウ酒を使ってポリュペーモスを深く酔わせ、その隙をついて脱出を成功させたのである。

哲学者ピロストラトスの記すところでは、マローンは死後、英雄の霊魂として扱われ、しばしばトラーキアの人々の前に姿を現し、彼らのブドウ畑の世話をすると信じられていたとされる。

このように、マローンはアポローンの神官としての地位に加え、優れたブドウ酒の所有者として、そしてオデュッセウスの冒険における重要な助け手として、ギリシア神話の中で語り継がれている人物である。

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