マンタス・クヴェダラヴィチュス

マンタス・クヴェダラヴィチュス（Mantas Kvedaravičius, 1976年8月28日 - 2022年4月2日）は、リトアニアの映画監督であり、社会文化人類学者としても知られていました。彼は、リトアニアのビルジャイで生まれ、ヴィリニュス大学で考古学を専攻した後、ニューヨーク市立大学大学院センターやオックスフォード大学、ケンブリッジ大学で文化人類学と社会人類学を学び、修士号と博士号を取得しました。マルチリンガルであり、母国語のリトアニア語に加え、英語、ロシア語、スペイン語、ギリシャ語を流暢に話すことができました。

映画監督としての活動

クヴェダラヴィチュスはドキュメンタリー映画の監督として国際的に高い評価を得ていました。2011年には、チェチェンにおける政治的な拷問や暴力を描いた『バルザフ』を制作し、この作品は40以上の国際映画祭で上映され、アムネスティ国際映画賞やエキュメニカル審査員賞など、15以上の国際的なドキュメンタリー賞を受賞しました。その後も、2016年には『マリウポリ』、2019年には『パルテノン』を制作し、その才能を示しました。

ロシア軍による殺害

2022年、ロシアのウクライナ侵攻中に、クヴェダラヴィチュスはロシア占領下のマリウポリから脱出しようとした際、ロシア軍によって殺害されました。当時45歳でした。リトアニア外務省によれば、彼はマリウポリでロシア軍による残虐行為を記録していたとのことです。ラトビア在住のロシア人映画監督ヴィタリー・マンスキーは、彼の死を「カメラを手にしながら殺された」と表現し、全世界に対する悪の戦争だと強く非難しました。また、マリウポリに同行していた婚約者は、「彼が殺されたことを全世界に知ってもらいたい」と語り、彼の死は、恐ろしい戦争の実態を世界に示すためのものだったと訴えました。

殺害に至る経緯

婚約者の証言によれば、クヴェダラヴィチュスは3月28日に逮捕され、ドネツク人民共和国の兵士によって尋問された際、「リトアニアの狙撃兵であるNATOの兵士」と断定されたとのことです。彼女は、彼の行方を毎日探し続け、4月1日に遺体を発見しました。遺体は翌日、ドネツクの遺体安置所に搬送されました。

調査結果

プロエクトとSpektr.Pressによる調査によると、クヴェダラヴィチュスは3月にマリウポリに入り、『マリウポリ2』の撮影を行っていました。同時に、チャットルームで依頼を受け、取り残された妊婦や高齢者などの避難を支援していました。しかし、3月27日、ロシア軍の拠点となっている住宅に誤って侵入したことで拘束されました。拘束時、同乗していた運転手は釈放されましたが、クヴェダラヴィチュスはその後、命を落とすことになりました。

マリウポリを占領していたのは、南部軍管区の部隊や、第810独立親衛海軍歩兵旅団、DNR人民民兵などでした。住民の証言によると、クヴェダラヴィチュスが拘束された地域は、3月28日から4月1日までDNRの戦闘員によって支配されており、その中にはロシア人も含まれていたとされています。また、DNR内務省特殊部隊や第6戦車小隊といった具体的な部隊名も挙がっています。さらに、避難民を脅迫していた「パシュテット」と呼ばれる男の存在も明らかになり、その人物がパベル・ムシエンコであることが判明しました。ムシエンコの父親もDNRの分離主義者であることからも、クヴェダラヴィチュスの事件に関与している可能性が示唆されています。しかし、ムシエンコ本人は関与を否定しており、真相の解明にはさらなる調査が必要とされています。

クヴェダラヴィチュスの携帯電話に記録されていた映像は、『マリウポリ2』として完成し、カンヌ映画祭でプレミア上映されました。彼の作品は、戦争の残酷さと人々の苦難を世界に伝え続けています。

もう一度検索