マンノース:単糖の化学と生体内での役割
マンノースは、
アルドヘキソースと呼ばれる単糖の一種です。
化学式はC₆H₁₂O₆、
分子量は180.16 g/molで、D体とL体の2つの異性体が存在します。D-マンノースは
果実や果皮などに含まれ、多糖であるマンナンを
加水分解することで大量に得られます。一方、L-マンノースは自然界には存在しません。
マンノースの化学的性質
マンノースは、
グルコースの2位エピマーであり、
グルコースとは異なる化学的性質を示します。
融点は132~133℃です。水溶液中では、主に6員環構造であるマンノ
ピラノースとして存在します。マンノースから、マンノン酸、マンヌロン酸、マンナル酸、マンニトールなどの誘導体が得られます。また、
ロブリー・ド・ブリュイン=ファン・エッケンシュタイン転位によって、
グルコースや
フルクトースなどの異性体へと変換されます。
マンノースの代謝
生体内で、マンノースはヘキソキナーゼによってマンノース-6-リン酸に、さらにマンノース-6-リン酸イソメラーゼによって
フルクトース-6-リン酸へと変換され、解糖系に参入します。しかし、ヒトではマンノースの代謝効率は低く、経口摂取されたマンノースのほとんどは解糖系には進まず、尿中に排出されます。
近年、ラットを用いた実験では、経口摂取されたマンノースの多くが腸管で吸収され、糖
タンパク質の糖鎖合成に利用されることが明らかになっています。吸収されたマンノースの約90%は30~60分以内に尿中に排泄され、残りの大部分も8時間以内に排泄されます。この過程で、
血糖値への影響はほとんどありません。
マンノースはN-結合型糖鎖の主要な構成成分であり、コラーゲン様部位におけるC-マンノシル化にも関与しています。しかし、
酵母などで生産されたリコンビナント
タンパク質は、ヒトの細胞で生産されたものとは異なるマンノース修飾パターンを示し、
ワクチンなどの有効性に影響を与える可能性が示唆されています。
マンノースの生成と用途
マンノースは、マンニトールの酸化や、
ロブリー・ド・ブリュイン=ファン・エッケンシュタイン転位による
グルコースからの変換によって生成されます。D-マンノースは、尿路感染症の治療薬として用いられることがあり、バクテリアの尿路への付着を阻害する効果があるとされています。
マンノースの語源
マンノースという名称は、旧約聖書の出エジプト記に登場する「マナ」という食べ物に由来しています。「マナ」は、特定の植物の甘味分泌物であると考えられています。
まとめ
マンノースは、化学的にも生理的にも興味深い単糖です。糖鎖合成における役割や、医療への応用など、さらなる研究が期待されています。特に、ヒトにおけるマンノース代謝の精密な解明や、リコンビナント
タンパク質におけるマンノース修飾パターンの制御は、今後の医薬品開発やバイオテクノロジー分野において重要な課題となっています。