マンビジ

シリアの古都マンビジ：古代から現代までの歴史

シリア北西部のアレッポ県に位置するマンビジ市は、豊かな歴史を誇る都市です。古代ギリシャ語ではバンビュケ、シリア語ではマッブーグと呼ばれ、紀元前にはコンマゲネ地方の聖地として、そしてセレウコス朝時代にはアンティオキアとセレウキアを結ぶ重要な拠点として栄えました。

古代都市バンビュケ：アタルガティスの聖地

マンビジは、シリア地方の女神アタルガティス（デルケトー）を祀る宗教都市として知られていました。アタルガティス神殿は、その規模と豪華さで有名であり、ルキアノスの『シリア女神について』には、神殿での崇拝の様子や、男根崇拝、聖なる魚、複雑な儀式などが克明に描写されています。神殿には多数の神官が仕え、信者たちは盛大な祭祀を行い、時に自傷行為や乱痴気騒ぎも行ったと伝えられています。

紀元前53年には、ローマのクラッスス将軍によって神殿が略奪されるという出来事もありました。その後、マンビジは3世紀にはユーフラテス川地方の中心都市として繁栄しましたが、4世紀以降は衰退の一途を辿ります。東ローマ帝国時代にはサーサーン朝との戦いの舞台となり、アッバース朝時代には修復されるも、その後は東ローマ、アラブ、テュルク勢力の争奪の的となりました。12世紀には十字軍が占領するも、サラーフ・アッディーンによって奪還され、モンゴル帝国の支配下では廃墟と化しました。

マンビジの遺跡

現在、マンビジには古代都市の広範囲にわたる遺跡が残されています。しかし、イスラム時代以降も都市として存続したため、古代の神殿などは残っておらず、聖なる湖の跡や、階段状の岸壁、水中構造物などが主要な遺跡となっています。バンビュケでは紀元前4世紀から貨幣が鋳造されており、アラム語で書かれ、女神の胸像や獅子に乗る女神像があしらわれたものが知られています。また、ローマ時代にはこの地で絹の生産が盛んに行われていました。

近現代のマンビジ

現在のマンビジ市の建設は19世紀に始まりました。露土戦争後、ブルガリアからの移民が街を築き、発掘された多くの遺物は近隣の市場で売買されました。

2011年から続くシリア内戦では、マンビジは「マンビジ・ポケット」と呼ばれる激戦地となりました。2012年には地元の反乱勢力が、2014年にはISILが支配権を握り、ISILはマンビジを外国人戦闘員の訓練拠点、「リトル・ロンドン」として利用しました。2016年にはシリア民主軍（SDF）がマンビジを奪還しましたが、2019年のトルコ軍によるシリア侵攻後、シリア政府軍が展開しています。

マンビジは、古代の栄光と近現代の激動の歴史を併せ持つ、複雑で興味深い都市です。その歴史的遺産と、内戦によって引き裂かれた現代の姿は、長く記憶されるであろう出来事です。

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