セレウキア

セレウキア：チグリス河畔の古代都市

セレウキアは、現在のイラクに位置する古代都市です。紀元前4世紀、セレウコス1世によって建設され、チグリス川西岸、オピス（後のクテシフォン）の対岸に栄えました。セレウコス朝初期の首都として機能しましたが、その後、首都はアンティオキアに移されました。しかし、セレウキアは、ユーフラテス川とチグリス川の合流点という戦略的な立地から、重要な交通の要衝として繁栄を続けました。

紀元前3世紀から2世紀にかけては、エジプトのアレクサンドリアと並ぶヘレニズム文化の中心地として発展しました。アンティオキアを凌ぐほどの繁栄を謳歌し、多様な文化が交差する国際都市として知られていました。当時の人口は60万人を超えたとされ、ローマとアレクサンドリアに次ぐ世界最大級の都市の一つでした。

紀元前141年には、パルティアのミトラダテス1世によって征服され、パルティア西部の主要都市となります。タキトゥスは、パルティア支配下にあっても、セレウキアがそのヘレニズム的な性格を維持していたことを記録しています。300名から成る元老院によって統治され、ギリシャ人の共同体とバビロニア人の共同体の二つの主要な勢力が存在していました。この二つの勢力は、権力と影響力を巡って、しばしば対立と協調を繰り返しました。

西暦117年、ローマ皇帝トラヤヌスによって破壊され、翌年にはハドリアヌス帝によって放棄されました。その後、パルティア様式で再建されましたが、167年には再びローマ軍の攻撃を受けて破壊されました。サーサーン朝時代には、アルダシール1世によって再建され、「ヴェーウ・アルダシール」と改名されました。

セレウキアの人口構成は、ギリシャ人やマケドニア人の入植者と、バビロニア人の住民から成っていました。建設当初、バビロンの住民が移住させられたという記録があり、バビロニア人の存在感は大きかったと考えられています。ギリシャ人とバビロニア人の関係については、史料が不足しており、詳細は不明な点が多いものの、両者の間には長期にわたる対立があったことは明らかです。ギリシャ人の共同体とは別に、バビロニア人の自治体も存在し、それぞれの権力機構が並存していました。パルティア時代にはセレウキア大反乱が起こり、ギリシャ人の勢力が衰えました。

近年では、トレド美術館とクリーブランド美術館の出資による発掘調査が行われました。1927年から1937年にかけて行われた調査では、パルティア時代の城壁に、新アッシリア帝国時代やバビロンE王朝の煉瓦が再利用されていることが判明しました。また、ギリシャ様式とメソポタミア様式の建築様式が融合した建物や、多くの非ギリシャ系住民が居住していた痕跡が発見されました。これらの発見は、セレウキアの多様な文化と歴史を理解する上で貴重な資料となっています。セレウキアの遺跡は、古代オリエントの歴史と文化を研究する上で重要な場所であり、今後も更なる発掘調査が期待されています。

セレウキアという名は、セレウコス1世に由来するものであり、同様の名称を持つ都市は他にも存在します。新約聖書にも登場するセレウキアは、ピエリアのセレウキアであり、本項で述べるチグリス川のセレウキアとは別の場所です。東ローマ帝国のテマが置かれたキリキアのセレウキア（現在のシリフケ）もまた、別の都市です。このように、セレウキアという名称は、複数の都市に用いられていました。

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