マンブルコア

マンブルコア：アメリカインディペンデント映画の新潮流

マンブルコアとは、2000年代初頭にアメリカで生まれたインディペンデント映画のムーブメントです。低予算、白人中流階級の日常生活、曖昧な物語構造、そして登場人物が早口で不明瞭な英語を話す独特の会話スタイルなどが特徴として挙げられます。これらの特徴から、「マンブル（mumble：不明瞭に話す）」という名が付けられました。語頭が小文字で表記されることも多く、その低予算性を示唆しています。

マンブルコアの誕生と背景

アメリカインディペンデント映画は、当初から低予算と実験精神を重視していました。しかし、2000年代に入ると、一部のインディペンデント映画が大きな成功を収め、ハリウッドと遜色ない規模の作品も現れるようになりました。そのため、ハリウッドやメジャーインディペンデント映画では捉えきれないアメリカ社会の現実を描いた、真の意味での自主製作映画への関心が再び高まっていました。

マンブルコアの最初の作品としては、アンドリュー・ブジャルスキー監督の『ファニー、ハ、ハ (Funny Ha Ha)』(2002) が挙げられます。同作品は2004年のインディペンデント・スピリット賞で「今後を期待したい映画賞」を受賞し、注目を集めました。

その後、2005年のサウス・バイ・サウスウェスト映画祭（SXSW）で、ジョー・スワンバーグ、アンドリュー・ブジャルスキー、マーク＆ジェイ・デュプラス監督の作品が上映され、若い観客から絶賛されたことで、マンブルコアは広く認知されるようになりました。

マンブルコアの制作体制と特徴

マンブルコア作品は、非常に低予算で制作されています。通常は1万ドル（約100万円）程度で、クラウドファンディングなどが資金調達手段として利用されていました。この低予算を実現できたのは、デジタル技術の進歩により、プロ用の撮影機材や編集ソフトが安価になったことが大きく貢献しています。

制作に関わっていたのは、まだ実績のない若手俳優、助監督、作家、ミュージシャンなどでした。彼らは互いに協力し合い、顔見知りのネットワークの中で作品を作り上げていきました。

マンブルコアの隆盛と影響

2007年には、ニューヨークの映画館IFCセンターでマンブルコア作品の特集が組まれ、大手メディアでも注目されるようになりました。

マンブルコア作品に初期から関わっていたグレタ・ガーウィグは、特に成功した俳優の1人です。彼女はノア・バウムバック監督の作品に出演し、高い評価を得ました。自身も脚本・監督を務めた『レディバード』(2017)や『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語|ストーリー・オブ・マイライフ_わたしの若草物語』(2019)は、興行的にも批評的にも大きな成功を収めました。

マンブルコアの映画研究における位置づけ

映画研究の分野では、マンブルコアはジェンダー表象や文化・階級表象の分析対象として注目されています。従来のアメリカ映画で男性が過度に男らしさを強調していたことに対して、マンブルコアは異なるジェンダー表現を示している点や、登場する人物がほぼ白人の中産階級に限られている点が、分析の対象となっています。

主なマンブルコア作品

ここでは、マンブルコアを代表するいくつかの作品を年代順に挙げます。

2002年: ファニー、ハ、ハ (アンドリュー・ブジャルスキー)
2005年: キッシング・オン・ザ・マウス (ジョー・スワンバーグ)、ザ・パフィー・チェア (ジェイ・デュプラス)、ミューチュアル・アプリーシエーション (アンドリュー・ブジャルスキー)
2006年: ダンス・パーティーUSA (アーロン・カッツ)、LOL (ジョー・スワンバーグ)
2007年: ハンナ・テイクス・ザ・ステアーズ (ジョー・スワンバーグ)、クワイエット・シティ (アーロン・カッツ)
2008年: バッグヘッド (ジェイ・デュプラス、マーク・デュプラス)、ミッドナイトキスをするまでに (アレックス・ホールドリッジ)、ナイツ・アンド・ウィークエンド (グレタ・ガーウィグ、ジョー・スワンバーグ)
2009年: アレキサンダー・ザ・ラスト (ジョー・スワンバーグ)、ハンプデイ (リン・シェルトン)、ビーワックス (アンドリュー・ブジャルスキー)
2010年: ガビ・オン・ザ・ルーフ・イン・ジュライ (ローレンス・マイケル・レヴィン)、タイニー・ファニチャー (レナ・ダナム)
2012年: フランシス・ハ (ノア・バウムバック)
2013年: ドリンキング・バディーズ (ジョー・スワンバーグ)

これらの作品は、マンブルコアの多様性を示すものです。それぞれの作品で、監督や俳優の個性、テーマなどが異なっています。

参考文献

Backman Rogers, Anna. American Independent Cinema: Rites of Passage and the Crisis Image, Edinburgh: Edinburgh University Press, 2015.
* King, Geoff ed. A Companion to American Indie Film, Malden, MA: John Wiley & Sons, 2017.

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