マーコール

マーコール：中央アジアの野生のヤギ

マーコール( Capra falconeri)は、ウシ科ヤギ属に分類される中型から大型の哺乳類です。ペルシャ語で「蛇を捕食する者」を意味する名前を持つこの動物は、険しい山岳地帯に生息し、その雄大な姿から「野生のヤギの王様」とも呼ばれることがあります。しかし、これは正確な情報ではありません。

分布と亜種

マーコールは、中央アジアの高山地帯に広く分布しています。アフガニスタン、イラン東部、インド北西部、パキスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタンなどに生息が確認されています。地域によっていくつかの亜種が知られており、それぞれ角の形や体毛の色などに特徴が見られます。

ヒンズークシマーコール(C. f. cashmirensis): カシミール西部とヒンズークシ山脈に生息。螺旋状に2回ねじれた角が特徴です。
*カシミールマーコール(C. f. falconeri): カシミール東部に生息。螺旋状に1回半ねじれた角を持ち、その長さは他の亜種と比べて際立っています。
*スライマンマーコール(C. f. jerdoni): パキスタン中西部（スライマン山脈）に生息。ほぼ直線的な角が特徴で、角の周囲には3本の稜があります。
*カイバーマーコール(C. f. megaceros)*: アフガニスタンとパキスタン（カイバー峠周辺）に生息。ほぼ直線的な角を持ち、角の周囲には2本の稜があります。

これらの亜種は、生息地の環境や地理的な隔離によって、それぞれ独自の進化を遂げてきました。

形態

マーコールの体長は130～180センチメートル、肩高は65～105センチメートル、体重はオスで80～110キログラム、メスで32～50キログラムに達します。前肢と後肢の一部は暗色の体毛で覆われています。最も特徴的なのは、雄の立派な角です。アルファベットの「V」字型をしており、長さは75～160センチメートルにもなります。一方、メスの角ははるかに短く、25センチメートル程度です。角の表面には、幾重にも重なった稜があります。

体毛の色は季節によって変化します。夏季は赤褐色で短く、冬季は灰褐色で長くなります。これは、厳しい冬の寒さから身を守るための適応と考えられています。

生態

マーコールは、標高700～4000メートルの高山地帯に生息します。岩場や草原、森林の間にある開けた場所を好みます。冬季には、より低標高の場所に移動して越冬します。

通常はメスと幼獣からなる群れで生活しており、群れの大きさは季節によって変化します。夏季は4～5頭、冬季は20～30頭にも達することがあります。

食性は植物食で、木の葉や枝、草などを食べます。季節によって食性も変化し、春から夏は草を、晩夏から秋は木の葉や枝を主に食べます。

繁殖期には、オス同士が激しく角を突き合わせて争います。冬季に交尾を行い、妊娠期間は約135～170日です。4～6月頃に1～2頭の子供を産みます。生後2年半で性成熟に達します。

天敵としては、ユキヒョウやオオカミなどが挙げられます。

人間との関係

マーコールは、古くから人間と関わってきました。食用とされたり、角が薬用として利用されてきた歴史があります。しかし、近年は生息地の破壊、角を目的とした乱獲、家畜との競合などによって、個体数が減少しています。特に、紛争地域では生息数の減少が深刻な問題となっています。1980年代の推定では、ウズベキスタンで180頭、タジキスタンで500頭、トルクメニスタンでわずか20頭しか生息していなかったとされています。

日本国内でも、いくつかの動物園でマーコールが飼育されています。

マーコールの保全のためには、生息地の保護、乱獲の防止、家畜との競合の軽減などの対策が不可欠です。希少な野生動物であるマーコールの未来を守るために、私たち一人ひとりができることを考えていく必要があります。

もう一度検索