マーシー級病院船

マーシー級病院船：海の医療拠点とその課題

アメリカ海軍が保有するマーシー級病院船は、1,000床もの病床を有する巨大な海上医療施設です。12室の手術室、CTスキャン装置をはじめとする充実した医療設備を備え、大規模災害や人道危機への対応能力において、世界でも類を見ない存在感を示しています。

設計と運用

マーシー級は、サン・クレメンテ級タンカーを改装することで建造されました。そのため、船体の基本設計はタンカー時代のものを踏襲しつつ、上部構造物の大幅な改修が施されています。艦橋は船体前部に配置され、船体中央部には広大なヘリコプター甲板が設置されています。これは、緊急患者搬送の迅速化に大きく貢献しています。また、複数の高速艇も搭載し、沿岸部へのアクセスも容易です。

推進システムは、ボイラーと蒸気タービンによる1軸推進方式を採用。複数のディーゼル発電機とタービン発電機を備え、安定した電力供給を確保しています。通常時はアメリカ東海岸と西海岸に1隻ずつ配備され、少数の民間人スタッフによって維持管理が行われています。基本的に港湾内に停泊し、機関の整備と点検のために年間数日の航海を行うのみです。災害への出動の際は、医療スタッフや支援スタッフを別途招集し、出航までに数日を要します。

充実した医療設備

ヘリコプターで搬送された患者は、3基のエレベーターで直接外傷初療室へと搬送されます。この初療室は50床の収容能力があり、トリアージと初期診療が行われます。迅速な診断を目的として、ポータブルX線装置や超音波検査装置が配置されています。

より高度な画像診断が必要な場合は、隣接する放射線科区画が利用されます。この区画には複数のX線撮影・透視室とCTスキャン室が設置されています。CTスキャン装置は、最新の64列式MDCTに更新されており、心臓・冠動脈CTにも対応しています。手術室は12室あり、そのうちの1室は血管造影にも使用可能です。

1,000床の病床に加え、集中治療室、術後回復室、熱傷治療室なども完備。さらに、歯科治療区画、検眼・眼鏡加工室、理学療法室、中央滅菌室、血液バンク、検査室、薬局、生体医工学室などを備え、総合的な医療サービスを提供できる体制を整えています。また、1日あたり大量の清水を造水することも可能です。

課題と後継艦

マーシー級は、その大きさや速度、防御能力の脆弱性といった課題も抱えています。最大速度は17ノットと遅く、展開に時間がかかる上に、敵のレーダーに探知されやすく、攻撃の標的となりやすいという問題があります。また、元々は石油タンカーだったため、船内の隔壁構造が患者の移動を阻害する要因にもなっています。

これらの問題点から、アメリカ海軍はマーシー級の後継として、EMS(X)計画を発表しました。これは、分散型海上作戦を支援するための専用の医療船で、浅海域への進出能力が高く、迅速な医療提供を可能とする設計となっています。手術室、ICU、病床などを備え、マーシー級と比較して大幅な性能向上を図っています。2023年5月には、このEMS(X)がベセスダ級遠征医療船と命名され、2026年の就航が予定されています。

まとめ

マーシー級病院船は、その圧倒的な医療能力で数々の災害救援活動に貢献してきました。しかし、時代遅れとなる側面も否めません。後継艦であるベセスダ級への更新は、アメリカ海軍の医療支援体制のさらなる強化を象徴する出来事と言えるでしょう。今後の活躍に期待が高まります。

もう一度検索