マーチ・CG891

マーチ・CG891：1989年シーズンの挑戦と苦闘

1989年のF1世界選手権において、マーチチームは前年型をベースに進化させたマーチ・CG891を投入しました。このマシンは、名設計者エイドリアン・ニューウェイの手によって生み出され、前年モデルからの改良が施されています。軽量化はもちろんのこと、空力特性の向上を追求するためにモノコック形状の最適化が図られました。マシン名のCGは、チーム関係者で交通事故で亡くなったチェザーレ・ガリボルディへの追悼の意を込めて名付けられました。

開発とコンセプト

CG891は、前モデルであるマーチ・881をベースに開発されました。881の成功を踏まえ、更なる性能向上を目指して設計されました。具体的には、重量バランスの最適化、空力性能の向上、そして軽量化に重点が置かれました。特に空力面では、モノコック下部を数ミリ単位で細くするなど、緻密な設計変更が加えられました。

搭載されたエンジンは、ジャッド社製76度狭バンク角V型8気筒エンジンです。これはニューウェイの意向を反映してジャッドが特別に開発したもので、1989年シーズンはマーチチームに独占供給されました。リヤセクションには、当時流行していたエンジン-トランスミッション-デフというレイアウトが採用されています。レイトンハウスの赤城明オーナーは、このエンジンとマシン設計によって空力特性が10%向上したとインタビューで語っています。

実戦での苦戦と失敗の要因

CG891は、第3戦モナコグランプリから実戦投入されました。しかし、チームとドライバーはマシンをうまく操縦できず、期待された成績を収めることができませんでした。その原因として、ミッションケースの剛性不足と、ジャッドEVエンジンの信頼性問題が挙げられます。イヴァン・カペリとマウリシオ・グージェルミン両ドライバーは、計27回のレースに出走するも、完走できたのはわずか6回に留まりました。

関係者によると、CG891の失敗には様々な要因が絡んでいたようです。レイトンハウスのコミュニケーションマネージャーだった安川実氏は、軽量化とコンパクト化にこだわり過ぎた結果、マシンのセッティングが極めてシビアになり、操縦性に難があったと指摘しています。わずか1mmのセッティングの違いで、操縦不能になることもあれば、逆にトップ争いができるほどの性能を発揮するなど、非常に扱いの難しいマシンであったとされています。

一方、設計者のエイドリアン・ニューウェイは、風洞実験結果と実際の走行結果の間にずれが生じた「風洞の罠」に陥ったと語っています。また、ジャッド社の創業者であるジョン・ジャッドも、狭バンク角のEVエンジンでは、従来のCVエンジンと比べて補機類の配置に苦労したと述べています。

スポットスポンサーとマシンのデザイン

第11戦ベルギーグランプリでは、集英社の週刊ヤングジャンプがスポットスポンサーとなり、CG891のフロントウィングにはJUMPロゴと、漫画家・松下進氏がデザインしたマスコットキャラクター「Mac Bear」が描かれました。

スペックと成績

CG891のスペックは、ブレーキキャリパーとブレーキディスク・パッドにAP製品が使用されました。シーズン終了後のコンストラクターズランキングは12位。ドライバーズランキングは、グージェルミンが16位、カペリはランキング圏外でした。

まとめ

マーチ・CG891は、革新的な技術と軽量化、空力性能の向上を追求した結果、操縦性の難しさや信頼性の問題を抱えるマシンとなりました。このマシンの開発過程と実戦での苦戦は、F1マシンの開発における複雑さと、その難しさを改めて示す事例と言えるでしょう。開発陣の努力と挑戦、そして惜しまれる結果、様々な要因が複雑に絡み合った1台だったと言えるでしょう。

もう一度検索