マー伯爵

スコットランド貴族の栄光と影：マー伯爵位の系譜

マー伯爵位は、スコットランド貴族社会において最も古く、かつ複雑な歴史を持つ爵位の一つです。その起源は古代アルバ王国（スコットランド王国）の封建家臣領「マー」の支配者、「モーマー」にまで遡ります。ドン川とディー川流域を領したマーのモーマーは、1114年のスコーン修道院創設の勅許で「Comes」（ラテン語で伯爵）の称号を与えられ、これがマー伯爵位の始まりとされています。

中世のマー伯爵家は、スコットランド王権と密接な関係を築きながら、幾多の変遷を経験しました。王位継承争いに巻き込まれたり、イングランドとの戦争で活躍したりと、その歴史はスコットランドの歴史そのものと深く関わっています。

特に12世紀から14世紀にかけてのマー伯爵家は、スコットランド王室との複雑な関係性を築きました。ブルース家の王位継承を支持し、スコットランド王室の血族とも姻戚関係を結んだことで、その勢力を拡大していきました。しかし、14世紀半ば、マー伯爵家の男子が絶えると、女系継承を経て、最終的に王室に没収されることになります。

15世紀以降、マー伯爵位をめぐる争いはさらに複雑さを増します。ステュアート王朝の分流であるアースキン家や、王室関係者たちがマー伯爵位を主張する中で、爵位は幾度となく創設・廃絶を繰り返しました。王位継承争いに利用されたり、政治的駆け引きの道具となったりと、マー伯爵位はスコットランドの政治的混乱を反映する鏡のような存在でした。

特に注目すべきは、1565年に6代アースキン卿ジョン・アースキンに与えられたマー伯爵位です。これは、中世からのマー伯爵位とは別に、新たな爵位として創設されたとされています。この創設を巡っては、後世まで議論が続き、1875年の貴族院の決定、1885年の議会法による是正を経て、中世からのマー伯爵位と1565年創設のマー伯爵位の2つが並存することになりました。

アースキン家は、マー伯爵位以外にも、ケリー伯爵位などの複数の爵位を有しています。アースキン家はブルース氏族を熱烈に支持し、スコットランド王室と深い繋がりを持つ一方で、たびたび王室と対立する立場に立たされるなど、複雑な歴史を歩んできました。

1715年には、23代マー伯ジョン・アースキンがジャコバイト蜂起を主導するも失敗し、爵位を剥奪されます。しかし、1824年にはその爵位が回復され、現在に至ります。

1875年の貴族院の決定は、マー伯爵位を巡る長年の争いに終止符を打つものでした。しかし、この決定は中世からのマー伯爵位と1565年創設のマー伯爵位の2つが存在することを認めたものでした。そのため、現在でも、中世からのマー伯爵位と1565年創設のマー伯爵位という、2つのマー伯爵位が存在することになります。

現在、中世からのマー伯爵位の当主は第31代マー女伯爵マーガレット・アリソン・オブ・マー、1565年創設のマー伯爵位の当主は第14代マー伯ジェイムズ・ソーン・アースキンです。マーガレットはマー氏族、ジェイムズはアースキン氏族の現在の族長でもあります。

マー伯爵位の歴史は、スコットランド貴族社会の興亡、王権との複雑な関係、そして継承問題など、多くの要素が絡み合った複雑で魅力的な物語です。この爵位を巡る争いは、スコットランドの歴史を理解する上で重要な鍵となるでしょう。

系譜と爵位

本文中には中世からのマー伯爵と1565年創設のマー伯爵の歴代当主一覧が記載されていますが、非常に長いため、このデータからは省略させていただきます。必要であれば、別途ご依頼ください。

参考文献

松村赳、富田虎男『英米史辞典』研究社、2000年
森護『スコットランド王国史話』大修館書店、1988年

関連項目

アースキン氏族
マー氏族
* バカン伯爵

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