ミェンズィモジェ

ミェンズィモジェ：バルト海から黒海へ、中東欧連合構想の歴史

ミェンズィモジェ（ポーランド語: Międzymorze、ラテン語: Intermarium）とは、中東欧地域における多国間連合国家構想です。その名称は「海洋間の」を意味し、バルト海から黒海にまたがる広大な地域を包含する野心的な計画でした。この構想は、20世紀初頭のポーランド指導者ユゼフ・ピウスツキによって強く提唱され、幾度となく実現に向けた試みがなされましたが、幾多の困難と反対に直面し、最終的には失敗に終わっています。

ポーランド・リトアニア共和国の遺産

ミェンズィモジェ構想のルーツは、14世紀から18世紀末まで存在したポーランド・リトアニア共和国に遡ります。この共和国は、ポーランドとリトアニアの合同によって成立し、広大な領土と多様な民族を抱えていました。ピウスツキは、この歴史的な多民族国家を理想とし、ミェンズィモジェを新たなポーランド・リトアニア共和国として構想しました。

この構想は、ポーランド王国の貴族アダム・チャルトリスキによる19世紀の構想にも影響を受けています。チャルトリスキは、ロシア帝国に対抗し、中東欧におけるポーランドの主導的地位を確立することを目指していました。彼の外交努力は、ピウスツキのプロメテイズム（ロシア帝国の崩壊と周辺民族の独立支援）政策と密接に関連しています。

ピウスツキとミェンズィモジェ

ピウスツキは、第一次世界大戦後の混乱期にミェンズィモジェ構想を本格的に推進しました。彼は、この連合によってロシア帝国やドイツといった強大な勢力に対抗し、中東欧における勢力均衡を維持しようとしました。構想には、バルト三国、ウクライナ、ベラルーシ、ハンガリー、ルーマニアなどの国々が含まれており、これら諸国を結ぶことで、ロシアやドイツの帝国主義に対抗する新たな勢力圏を形成することを目指していました。

しかし、この計画は多くの困難に直面しました。まず、ミェンズィモジェ構想に含まれる各国は、それぞれ独自の独立を望んでおり、ポーランドの主導権下で連合国家を形成することに抵抗しました。特にリトアニアやウクライナは、ポーランドによる支配を警戒していました。また、ソ連もミェンズィモジェ構想を強く警戒し、その実現を妨害しようとしました。さらに、西欧諸国も、ロシアとの関係を重視するあまり、ピウスツキの計画を積極的に支援しませんでした。

対立と失敗

ミェンズィモジェ構想は、内部からも反対を受けました。ポーランド国内では、民族主義的な勢力が、多民族国家の形成に反対し、単一民族国家の建設を主張しました。この内部抗争は、ミェンズィモジェ構想の実現をさらに困難にしました。

ポーランド・ソビエト戦争やその他の中東欧における領土紛争も、ミェンズィモジェ構想の実現を阻む大きな要因となりました。これらの紛争によって、中東欧地域の情勢は不安定化し、各国の協力関係を築くことが困難になりました。

ピウスツキの死後も、ミェンズィモジェ構想は様々な形で継承されました。しかし、第二次世界大戦の勃発によって、この構想は完全に消滅しました。

現代における影響

ミェンズィモジェ構想は、歴史的な失敗に終わったものの、その構想は現代の中東欧政治にも影響を与え続けています。ヴィシェグラード・グループ（ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキア）のような地域協力機構は、ミェンズィモジェ構想の精神を受け継いでいると考えることができます。また、三海洋イニシアティブのように、中東欧諸国を結ぶ新たな協力枠組みが構築されつつあります。

しかし、これらの取り組みは、依然として帝国主義的なものと捉えられる可能性があり、中東欧諸国間の複雑な関係を反映しています。ミェンズィモジェ構想は、中東欧の歴史と政治的現実を理解するための重要な鍵となっています。

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