ミゲル・ウトリーリョ

ミゲル・ウトリーリョ・イ・モルリウス（1862年～1934年）は、スペイン・カタルーニャ地方の多才な人物でした。美術評論家、舞台美術家、画家、そして技術者として、幅広い分野で才能を発揮した彼は、複雑で興味深い生涯を送りました。

1862年、バルセロナに生まれたウトリーリョは、自由主義者の弁護士である父と、リェイダ出身の母のもとで育ちました。一家は1867年にフランスへ亡命し、彼はアヴィニョンでフランス語とスペイン語のバイリンガル教育を受けました。その後、パリの国立農学校で工学を学びましたが、両親がスペインへ帰国した後も、パリにとどまりました。

モンマルトルの芸術的な雰囲気に魅せられたウトリーリョは、キャバレー「ル・シャ・ノワール」に通い、そこで画家シュザンヌ・ヴァラドンと出会います。二人は恋人となり、1883年、シュザンヌは息子モーリスを出産しました。しかし、モーリスの父親が誰であるかは明かされませんでした。

その後、ウトリーリョはベルギーとドイツを旅行し、マドリードで父と合流。1888年のバルセロナ万国博覧会では技術者として参加し、翌年にはパリ万国博覧会の取材のため『ラ・バングアルディア』紙の特派員としてパリに戻りました。パリ万博終了後もパリに留まり、美術評論家として活動を始めました。

1890年、シュザンヌと再会したウトリーリョは、彼女が息子を「モーリス・ユトリロ・ヴァラドン」（ユトリロはウトリーリョのフランス語読み）と呼んでいることを知ります。そして1891年、紆余曲折の末、7歳のモーリスを自分の息子として認知しました。同年、彼が携わった舞台作品には、エリック・サティが音楽を提供しています。しかし、1893年にはシュザンヌとサティの仲が明らかになり、彼はシカゴ万国博覧会のためにシカゴへ渡りましたが、シカゴの雰囲気を好まず、万博終了後にパリへ戻りました。

1895年、ウトリーリョはスペインへ帰国し、シッチェスで画家として活動を始めました。当時、シッチェスには芸術家コミュニティが形成されつつあり、彼はその中心人物となりました。『ラ・バングアルディア』紙への美術評論の寄稿や、シッチェスのムダルニズマ祭での舞台美術やポスター制作、そして詩人ジュアン・マラガイが翻訳したグルックのオペラの挿絵など、精力的に活動しました。また、1899年から1903年にかけては文芸誌『ペル・イ・プロマ』の編集にも携わっています。

1910年、ウトリーリョはローラ・ヴィダルと結婚します。ローラは未亡人で、その息子はウトリーリョと15年来の知り合いでした。この頃、フランス系アメリカ人の美術収集家チャールズ・ディアリングから、サン・ホアン・バプティスタ病院の改修設計を依頼され、1919年までこのプロジェクトに取り組みました。その間も、バルセロナで開催されたフランス美術展の運営に関わり、1916年にはフランス政府からレジオンドヌール勲章を授与されています。

しかし、1921年にはディアリングとの間で、信用を濫用したとして訴訟問題に発展します。「ディアリング事件」と呼ばれたこの事件は解決せず、ウトリーリョの名声は傷つきました。さらにヨーロッパの経済危機も彼を苦しめました。しかし、1929年のバルセロナ万国博覧会では、「ポブレ・エスパニョール」の設計に携わったことで、名声はいくらか回復しました。

友人のルシニョールは、ウトリーリョの名誉回復のため、自宅を改築して美術館（現在のカウ・フェラット美術館）を開設しました。その後、ルシニョールと妻ローラが死去したのち、1934年、ウトリーリョもシッチェスで生涯を終えました。彼の研究成果は死後に出版されました。

ミゲル・ウトリーリョ・イ・モルリウスは、画家としての才能だけでなく、美術評論家、舞台美術家、技術者としての多様な才能、そして複雑な人間関係、そして時代背景といった要素が絡み合い、実に興味深い人生を送った人物と言えるでしょう。彼の作品や活動は、スペインの文化史において重要な位置を占めています。

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