ミシェル・セール

ミシェル・セール：人文科学と自然科学を繋ぐ思想家

ミシェル・セール（1930年-2019年）は、フランスを代表する思想家の一人です。科学史家、科学哲学者としてだけでなく、その幅広い知見と独自の思考から、現代の百科全書派とも評されています。セールは、人文科学と自然科学の垣根を越えた学際的な研究を行い、従来の学問体系にとらわれない独自の哲学体系を構築しました。

セールは南仏アジャンに生まれ、海軍兵学校を卒業後、高等師範学校に進学。数学、文学、哲学の学位を取得し、哲学のアグレガシオンを取得しました。その後、パリ大学、スタンフォード大学、コレージュ・ド・フランスなどで教鞭をとり、多くの学生に影響を与えました。クレルモン＝フェラン大学時代には、哲学者ミシェル・フーコーと親交を深め、互いに刺激し合う関係を築きました。

彼の哲学は、バシュラールに学んだものの、ブルバキ構造主義やライプニッツ哲学からの影響も強く受けています。セールは「準拠枠を持たぬ思惟」という独自の概念を提唱し、位階的でない学問体系「百科学」を目指しました。これは、既存の学問分野の枠を超え、様々な分野の知見を統合しようとする試みです。

セールは自身の著作シリーズに「ヘルメス」という名を冠していますが、これは単に知の横断者という意味だけでなく、商業の起源としてのヘルメスの側面も意識していると考えられます。彼の著作は、詩的で難解な表現を用いていますが、その深淵さ、そして文学と科学を融合させた独自のスタイルは高く評価されています。

セールの著作は、自然科学者にも大きな影響を与えました。特に、イリヤ・プリゴジンなどの非平衡系熱力学の研究者たちは、セールの思想に共鳴しました。また、日本の思想家である中沢新一は、セールの『ルクレティウスのテキストにおける物理学の誕生』に感銘を受け、『雪片曲線論』へと繋がるインスピレーションを得たと語っています。さらに、高山宏はセールの研究姿勢を、英米圏におけるラヴジョイ・サークルと比較しています。

セールの業績は高く評価され、1985年にはメディシス賞エッセイ部門を受賞、2013年にはダン・デイヴィッド賞を受賞しました。1990年にはアカデミー・フランセーズ会員に選出され、レジオンドヌール勲章シュバリエ章を受章するなど、数々の栄誉に輝きました。

セールの著作は、難解な部分も多いですが、その独特の視点と深い洞察は、現代社会を考える上で貴重な示唆を与えてくれます。人文科学と自然科学の融合、そして既存の枠組みを超えた思考の重要性を示した、20世紀後半から21世紀初頭における重要な思想家の一人と言えるでしょう。彼の著作は、今後も多くの研究者や思想家たちに読み継がれていくことでしょう。

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