ミステリー・サークル

ミステリー・サークルとは、主に穀物を栽培している田畑において、作物の一部が円形や様々な幾何学的な形状に倒伏した状態、あるいはその痕跡を指します。英語圏ではクロップ・サークル（Crop circle）やコーン・サークル（Corn circle）とも呼ばれます。

この現象は特に英国を中心に世界各地で報告されており、1980年代にはその出現が謎めいた出来事として大きな注目を集めました。当時は原因不明とされ、宇宙人の仕業とする説をはじめ、自然現象や超常現象など、様々な仮説が論じられました。ミステリー・サークルの愛好家や研究者は、古代ローマの農業の女神ケレスに由来する「セレオロジスト」と自称することもあります。

初期に報告されたミステリー・サークルは、比較的単純な円形が主流でした。しかし、現象が知られるようになるにつれて、その形状は次第に複雑化していきました。複数の円が組み合わされたもの、直線的な要素を含むもの、大小さまざまなサークルが幾何学的な配置で現れるものなどが出現しました。さらに2000年以降には、人間の顔や、いわゆる「グレイ」と呼ばれるエイリアンの顔、あるいは宇宙論を示唆するとされる図形など、より高度で芸術的な形状も見られるようになりました。このような複雑化は、「サークルメーカー」と呼ばれる製作者たちの技術向上によるものと考えられています。

ミステリー・サークルの発生頻度が増し、社会的な関心が高まるにつれて、その原因究明への関心も高まりました。最もセンセーショナルな説としては、宇宙人やUFOの活動と結びつけるものがありました。その他にも、霊的な力やオカルト、魔術に関連付ける見解も提唱されました。これに対し、より科学的な視点から、局所的な突風であるマイクロバーストやプラズマ放電といった自然現象を原因とする仮説も唱えられました。しかし、こうした議論の中で、特殊な現象ではなく、単に人間が意図的に作り出した「イタズラ」であるとする見方は、当初はあまり注目されませんでした。しかし、ある出来事によって事態は大きく動きます。

1991年、イギリスのダグ・バウワーとデイブ・チョーリーという2人の高齢男性が、自身たちが最初のミステリー・サークル製作者であると公表しました。彼らは、ごく単純な道具と人力のみを用い、比較的小規模なものであれば短時間で作成できることを実演しました。この実証により、それまで盛んに議論されていた超常現象説や自然現象説は急速に説得力を失い、ミステリー・サークルの多くは人為的な創作物であるという見方が主流となりました。

彼らの告白によると、ミステリー・サークルの製作を始めたのは1978年頃で、当初は年に数個程度でした。1982年頃からメディアで話題になり始めると製作数を増やし、最終的には250個以上を作成したとされています。当初は深夜に隠れて作業していましたが、ダグの妻アイリーンに不審がられて発覚。後にアイリーンも製作に加わるようになり、彼女も「作品」の出来を楽しんでいたといいます。彼らが告白に至った動機は、ミステリー・サークルが宇宙人や超常現象と過剰に結びつけられ、国家機関などが調査に乗り出す事態となり、自分たちのイタズラが原因で税金が無駄に使われることを憂慮したためでした。また、気象学者が竜巻説を唱えると、彼らはそれを踏まえて意図的に複雑な巻き方のサークルを作成するなど、自然現象では説明困難な形状を意図的に作り出すこともありました。彼らの初期の「作品」が土曜の朝に発見されることが多かったのは、ダグが金曜の夜に外出の許可を得ていたためです。妻に知られた後は自由に外出できるようになったため、後年の作品は不定期に発見されています。ダグ・バウワーとデイブ・チョーリーは、その「功績」を認められ、1992年にイグノーベル賞の物理学賞を受賞しています。

バウワーとチョーリーの告白後も、超常現象説などを支持する人々からは、あまりに幾何学的な形状や、作物が編み込まれるように倒れている様子は人間には不可能であるといった反論がありました。しかし、前者はCADを用いた精密な設計が可能であること、後者についても人為的な作成でも同様の状態が再現可能であることが示されました。

また、バウワーとチョーリーだけでは世界中で報告された全てのミステリー・サークルを説明できないという指摘も当然ありました。しかし、彼らが引き起こした社会現象に触発され、彼らを真似てサークルを作成する人々が多数出現したことが判明しています。イギリスだけでも20以上のサークル製作グループが存在したとされ、その一部は現在も活動を続けています。規定時間内に独創的なサークルを作るコンテストなども開催されています。ミステリー・サークル周辺で目撃されたとされる「光の球」についても、そのほとんどがイタズラや捏造であり、風船に懐中電灯をつけたものだったといった事例が明らかになっています。あるイギリスのテレビ番組では、製作者の協力を得て作成したサークルを専門家に見せたところ、科学者、超常現象研究家ともに人為的なものとは見抜けず、人間以外の存在によるものと誤認するという出来事もありました。サークルの発見が月曜日に多い傾向があったことも、週末に人間によって製作された可能性を示唆しています。

人為的なイタズラであるという認識が社会に広まるにつれて、原因不明とされるミステリー・サークルの発生報告は減少し、やがてほぼ終息しました。これは、愉快犯的な側面が強かったことを裏付けています。告白以前に自然現象説などを唱えていた専門家の中には、人工物であることを見抜けなかったことから、後に批判される者もいました。一方で、人為的な創作物であることを公にした上で、一種の現代アートや広告、あるいは技術を競う対象として、複数のグループが公然とサークル製作活動を行うようになりました。

こうした流れにより、現在ではミステリー・サークルの原因を人間のイタズラや創作以外のものに求める説は、ごく一部を除いてほぼ一掃されています。しかし、中には人為説だけでは説明しきれないケースも存在する、とする主張も依然として存在します。

日本においても、1990年9月に福岡県糟屋郡篠栗町の稲田で直径20メートルと5メートルのサークルが出現し、大きな話題となりました。イギリスでの現象がテレビ等で紹介されていた影響もあり、全国ニュースで取り上げられ、多くの見物客が現地に押し寄せる騒ぎとなりました。町おこしに活用される動きもありました。これをきっかけに、福岡県や佐賀県を中心に日本各地で同様のサークルが相次いで報告され、マスコミでも大きく扱われ、ちょっとしたブームとなりました。

篠栗町のサークルについては、超常現象懐疑派の物理学者である大槻義彦氏が現地調査を行い、プラズマ現象による「本物」であると主張し、メディアでも強く発言しました。しかし、翌1991年10月、福岡県内で窃盗容疑で検挙された高校生のグループが、篠栗町のサークルを自分たちがイタズラで作ったものであると自白し、人為的なものであったことが判明しました。大槻氏は、自身の調査後に現場が荒らされたことなどを理由に釈明コメントを出しましたが、この報道以降、日本国内でのミステリー・サークル発生報告は激減し、ブームは急速に鎮静化しました。なお、大槻氏は後にブログで、ミステリー・サークルのほとんどはやらせであるとしつつも、「古代からミステリーサークルの記録はありますから、すべてやらせとは言えないでしょう。何か未解明な気象現象が隠されているかもしれません」と、ブーム当時の断定的な見解からややトーンダウンしています。

ミステリー・サークルに類似するとされる歴史的な記述や伝承もいくつか存在します。1678年の古文書に描かれた、鎌で円形に麦を刈る悪魔の挿絵「草刈デビル（The Mowing-Devil）」が、ミステリー・サークルが存在した歴史的証拠として挙げられることがありますが、その内容は作物の一部が倒伏するミステリー・サークルとは異なります。ルーマニアには、3人の美女ヤロレイが村に呪いをかけるために踊った跡が丸く焼け残ったという民話もあります。また、UFOの着陸痕とされるものを「Saucer nests（円盤の巣）」と呼び、ミステリー・サークルと同一視する見方も存在します。

ミステリー・サークルは、フィクション作品の題材となることもあり、映画『サイン』（2002年）、『遠くの空に消えた』（2007年）、ドキュメンタリー映画『スライヴ THRIVE』（2011年）などで取り扱われています。

現在ではその原因がほぼ解明されたとされていますが、かつては世界中の人々を魅了し、様々な議論を巻き起こしたミステリアスな現象でした。

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