ミスト (映画)

ミスト

2007年に公開されたアメリカのSFホラー映画。原作はスティーヴン・キングが1980年に発表した中編小説『霧』。監督・脚本は、キング作品の映画化で知られるフランク・ダラボンが手掛けた。突如発生した濃密な霧によって外部から隔絶された人々が、未知の恐怖と対峙しながら、極限状況下で人間性が変貌していく様を描く。

物語の概要

激しい嵐が通り過ぎた翌朝、画家であるデヴィッド・ドレイトンは息子のビリー、そして隣人のノートン弁護士と共に、買い物のため地元のスーパーマーケットへ向かう。店内は多くの客で賑わっていたが、その時、店外でパトカーや救急車のサイレンが鳴り響き、騒然となる。やがて、鼻血を流した男性が店に駆け込み「霧の中に何かがいる」と叫ぶ。その直後、街は真っ白な深い霧に包み込まれ、不安に駆られた人々は店内に閉じ込められてしまう。

外の世界から隔絶されたスーパーマーケットは、パニックと混乱の渦に飲み込まれる。狂信的な宗教信者であるミセス・カーモディは、この状況を「神の怒り」「ハルマゲドン」と断じ、人々を扇動し始める。一方、自宅に子供を残してきた女性は助けを求めるが、誰からも応じてもらえず、絶望して一人で霧の中へ消えていく。

デヴィッドたちは、閉鎖された空間で信頼できる人々（教師のアマンダ、副店長のオリーなど）と協力関係を築こうとする。しかし、ストアのシャッターを開けて外の様子を伺おうとした店員が、霧の中から伸びてきた謎の触手に捕らえられ、無残な最期を遂げる。外には人知を超えた恐ろしい生物が存在することが明らかになる。それでも現実を受け入れられないノートン弁護士たちは、救助を求めるために店を出て行くが、彼らの結末は悲惨なものだった。

夜になると、光に引き寄せられた巨大な昆虫や翼のある生物が窓を破って店内に侵入し、激しい襲撃を受ける。犠牲者を出しながらも怪物を撃退するが、この恐怖体験により、ミセス・カーモディの主張に耳を傾ける者が増え始める。負傷者のための医療品を求め、デヴィッドたちは隣の薬局へ向かうが、そこは蜘蛛のような生物の巣窟となっており、さらなる犠牲者を出してしまう。

店に戻ると、事態はさらに悪化していた。軍の「アローヘッド計画」なるものが関係しているという噂が広まり、責任を問われた兵士ジェサップは、ミセス・カーモディに扇動された群衆によって店外に追放され、霧の中で消える。ミセス・カーモディとその信者たちは、デヴィッドたちのグループを追い詰め、遂には息子のビリーを生贄に差し出すよう要求する。命の危険を感じたデヴィッドたちは、オリーの機転によりミセス・カーモディを倒し、店からの脱出を敢行する。

しかし、脱出の道のりもまた過酷だった。店の外で待ち受けていた怪物たちの襲撃により、オリーを含む仲間を失いながらも、デヴィッド、アマンダ、ビリー、そして数人の生存者は車に乗り込む。彼らは霧の中を南へ向かうが、道中で目にするのは崩壊した街と、想像を絶する巨大な生物の姿だった。希望を見出せないまま車の燃料が尽き、彼らは絶望的な状況に追い込まれる。

生き残ったのは大人4人と眠っているビリー。デヴィッドは、残された弾丸が4発しかない拳銃を手に、苦渋の決断を下す。「自分が何とかする」と告げた後、愛する息子を含む4人を射殺する。半狂乱となり、自らも死を望んで車外へ飛び出すデヴィッド。しかし、その直後、霧の中から現れたのは、怪物たちを掃討する軍隊と、奇跡的に生き延びた他の生存者たちを乗せたトラックだった。自らの早まった判断により、最も救いたかった者たちの命を奪ってしまったデヴィッドは、晴れていく霧の中、ただただ絶叫するしかなかった。

製作と背景

フランク・ダラボン監督は、長年にわたりキングの原作小説の映画化を構想していた。特に衝撃的な結末については、ダラボン自身が考案したものであり、原作者のキングもその大胆さを称賛している。製作はパラマウント映画からディメンション・フィルムズへ移行し、ルイジアナ州シュリーブポート近郊で撮影が行われた。ダラボン監督作品の常連俳優であるウィリアム・サドラーやジェフリー・デマンらも出演している。

映画に登場するクリーチャーの造形は、リック・ベイカーに師事したグレゴリー・ニコテロが担当。ダラボン監督は、過去にギレルモ・デル・トロが使用した視覚効果スタジオを選んでいる。生物デザインには原作に登場するものだけでなく、新たに創造されたものも含まれる。

評価と影響

本作は批評家から概ね好意的な評価を得ており、特にその容赦ないストーリー展開と衝撃的なラストが高く評価されている。北米をはじめ全世界で一定の興行収入を記録した。日本では、2013年にイギリスの『トータルフィルム』誌が選ぶ「原作を超えた映画ベスト50」で第1位に選出されるなど、高い評価を受けている。その極めて悲劇的な結末ゆえに、「トラウマ映画」「鬱映画」としても語り継がれており、日本のテレビ放送時にはSNSで大きな話題となった。

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