ミトタン

ミトタン（mitotane）

ミトタンは、主に副腎皮質に発生する悪性腫瘍である副腎皮質癌や、ホルモン過剰分泌による重度のクッシング症候群の治療に用いられる薬剤です。化学的には、かつて殺虫剤として使用されていたDDTの類縁物質であり、DDD誘導体として知られています。日本国内では、「オペプリム」という商品名で、ヤクルト本社が販売を行っています。

作用機序

ミトタンの主な作用は、副腎皮質の細胞内にあるミトコンドリアを選択的に標的とすることにあります。ミトコンドリアの機能を妨げることにより、副腎皮質の細胞は不可逆的な傷害を受け、最終的には死滅します。この作用は「薬理的副腎皮質排除」と呼ばれ、副腎皮質の過剰な機能や腫瘍の進行を抑制することを目指します。特に、副腎皮質癌においては、外科手術が困難な症例や、手術後の再発予防のために使用されることがあります。また、副腎由来の重度のクッシング症候群に対しても、過剰なコルチゾール産生を抑える目的で適用されます。

薬物動態

ミトタンを内服した場合、消化管から一部が体内に吸収されますが、吸収されなかった分はそのまま便として体外に排出されます。ミトタンは非常に脂溶性が高い性質を持っており、これは化学構造が類似するDDTと同様の特徴です。体内に吸収されたミトタンは、主に脂肪組織に蓄積される傾向があります。そのため、全身の組織に広く分布し、分布容積が大きいことが特徴です。この高い脂溶性と脂肪組織への蓄積性により、体外への排泄は非常にゆっくりと進行します。血液透析のような手法を用いても、体内に蓄積したミトタンを効率的に除去することは困難です。脂肪組織に次いで、治療対象である副腎にも比較的高い濃度で分布することが知られています。体内で代謝を受けたミトタンの分解産物は、元のミトタンよりも水溶性が高くなるため、主に尿を介して体外へ排泄されます。

副作用と注意点

ミトタンの投与にはいくつかの副作用が伴います。その一つに、コレステロール合成に関わる酵素であるコレステロールオキシダーゼの阻害作用があり、これにより高脂血症を引き起こすリスクが高まります。また、脳機能への影響も懸念されており、特に血中濃度が一定値（例えば20 μg/ml）を超えると、中枢神経系への有害事象、例えば認知機能の低下や平衡感覚の障害などが生じやすいとされています。そのため、治療中は定期的な血中濃度測定を行い、適切な投与量を維持することが重要です。

獣医学領域での使用

ヒトの医療分野だけでなく、獣医療においてもミトタンは利用されています。特に、イヌの下垂体性クッシング症候群の治療薬として使用されることがあります。この場合も、ミトタンの投与により副腎組織の破壊を調整し、過剰なコルチゾール産生を抑制することを目指します。

ミトタンは稀な疾患に対する重要な治療選択肢ですが、その特性上、専門医の管理下で慎重に投与されるべき薬剤です。

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