ミミウイルス

ミミウイルス

ミミウイルス（学名：Acanthamoeba polyphaga mimivirus）は、アメーバの一種であるアカントアメーバの中から見つかった、非常に大きなDNAウイルスです。その発見は、これまで考えられていたウイルスのサイズや複雑さの限界を大きく超えるものでした。2011年にチリでさらに巨大なメガウイルスが発見されるまでは、最も大きなウイルスとして知られていました。

発見の経緯

ミミウイルスは、1992年にイギリスのウェスト・ヨークシャー州にある病院の冷却水から偶然発見されました。当時、研究者たちは肺炎の原因となる細菌を調査していましたが、その過程で、アカントアメーバの内部に存在する異常な微生物を見つけました。この微生物は、一般的な細菌と見間違えるほどの大きさを持っていたため、最初は新しい種類の細菌と考えられ、「ブラッドフォード球菌」と仮に名付けられました。

しかし、その後の詳細な調査により、この微生物はリボソームRNAを持たないことが判明しました。リボソームRNAは、タンパク質合成に関わる重要な分子であり、全ての細胞生物（細菌を含む）が持っているものです。このことから、ブラッドフォード球菌は細菌ではなく、未知のウイルスである可能性が高いと考えられました。そして、2003年にその正体が科学雑誌「サイエンス」で発表され、正式にミミウイルスと命名されました。

形態と特徴

ミミウイルスは、ウイルスの常識を覆すほど巨大なサイズを持ちます。直径はおよそ750ナノメートル（nm）にも達し、これは多くの細菌のサイズに匹敵します。構造としては、正20面体のカプシド（ウイルスの外殻）の中に、脂質二重膜で覆われたDNAゲノムが収められています。さらに、このカプシドの表面は、毛のような構造で密に覆われているのが特徴です。

ゲノムサイズも、一般的なウイルスと比較して桁違いに大きいです。ミミウイルスのゲノムは約120万塩基対という巨大さで、これは多くの小さな細菌のゲノムよりも大きいほどです。また、遺伝子の数も約980個と非常に多く、これには他のウイルスでは見られないような、独自の機能を持つ遺伝子が含まれています。これらの特徴から、ミミウイルスは「巨大核質DNAウイルス群（Nucleocytoplasmic Large DNA Viruses; NCLDV）」と呼ばれるグループに分類されています。

分類と命名由来

ミミウイルスは、ウイルス分類学上、ミミウイルス科に属しています。ミミウイルス属としては、現在確認されているのはこのミミウイルスのみです。しかし、ミミウイルス科には、ミミウイルスよりもさらに大きく、ゲノムも複雑なママウイルス（Mamavirus）など、近縁の巨大ウイルスが複数発見されています。

「ミミウイルス」という名前は、その発見の経緯に由来しています。発見当初、細菌（グラム陽性菌）と誤認されたことから、「細菌に擬態していた」「化けていた」という意味合いの「mimick」という単語から名付けられました。

ミミウイルスの発見は、ウイルスの定義や、生命の進化におけるウイルスの役割について、新たな議論を巻き起こしました。その複雑なゲノムや巨大な構造は、ウイルスが単なる病原体ではなく、地球上の生命の歴史において重要な役割を果たしてきた可能性を示唆しています。

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