ミャンマーにおけるLGBTの権利

ミャンマーにおけるLGBTQ+の人々の状況

ミャンマーでは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー（LGBTQ+）の人々が、異性愛者などとは異なる多くの困難に直面しています。特に法的な側面において厳しい制約があり、社会的な保守性も相まって、権利の確立や平等な扱いは大きな課題となっています。

法的な課題と制約

ミャンマーの法律は、LGBTQ+の人々にとって多くの障壁となっています。中でも最も影響が大きいのは、1861年に制定され、1886年に施行された刑法第377条です。この条項は、同意があるか private（私的）な場所で行われたかに関わらず、同性間の性的な行為を違法としており、違反者には最大20年の懲役刑が科される可能性があります。また、異性間の特定のアナルセックスやオーラルセックスもこの法律の対象とされています。この刑法377条、通称「ソドミー法」は常に厳格に適用されているわけではありませんが、2018年にはゲイ活動家がこの法律に基づいて逮捕される事例も発生しており、依然としてLGBTQ+コミュニティにとって脅威となっています。

トランスジェンダーの人々は、さらに別の法的な課題に直面しています。国家は彼らの性自認を公式に認めておらず、出生時に割り当てられた性別からの変更は認められていません。さらに、警察からの嫌がらせや性的暴行の対象となることもあり、「影の法律」あるいは「暗黒法」と呼ばれる警察法第35条(c)が、日没後に「怪しい」と見なした人物を拘束する根拠として使われ、トランスジェンダーの人々が不当に標的とされるケースが報告されています。

これらの主要な法律に加え、性感染症の感染予防に関わる刑法269条や270条、公共の妨害を禁じる290条、わいせつ行為や物品に関する292条から294条、不法な売買春や結婚式に関連する372条や469条など、他の刑法条項や非常事態準備法も、解釈次第でLGBTQ+の人々に適用される可能性があります。

また、同性間のパートナーシップは法律によって一切認められていません。同性婚やシビル・ユニオンのような制度は存在せず、2014年に非公式ながら結婚式を行った同性カップルの事例は、メディアの注目を集めると同時に、保守的な層からの強い反発を招き、ソドミー法の適用について議論が巻き起こる結果となりました。

社会・文化的な状況と変化

ミャンマーの社会規範は、セクシュアリティに関して「極めて保守的」であると広く認識されています。長期間にわたる軍事政権下では、LGBTQ+の人々による組織的な政治活動や社会運動は事実上存在しませんでした。政府の同性愛嫌悪的な姿勢、一般大衆の理解不足、そしてコミュニティ内でのロールモデルの不足などが相まって、LGBTQ+の人々は社会の中で長く不可視化されてきました。

特に、HIV/AIDSに感染したゲイ男性は、社会的なスティグマに強く晒される傾向があります。また、仏教の伝統的な考え方の中には、LGBTQ+として生まれることを前世の行いに対する罰とみなす見方があることも、社会的な受容を妨げる要因の一つとなっています。

しかし、このような状況の中でも、変化の兆しは見られます。2011年から2015年にかけての政治改革以降、メディアの自由や市民活動が一定程度許容されるようになったことで、LGBTQ+コミュニティは以前よりも可視性を増し、社会的な支持を得る機会が増えました。都市部では、必ずしもLGBTQ+専用ではありませんが、彼らが安心して集まることができるナイトクラブのような場所も非公式に存在すると言われています。

トランスジェンダーの人々の中には、「ナッカドー」と呼ばれる霊媒師として活動することで、社会的に否定されがちな存在でありながらも、伝統的な儀式において一定の尊敬や崇拝を得る人々もいます。これは、トランスジェンダーが就くことのできる「尊敬される」職業とされる美容師、ファッションデザイナー、ナッカドーの三つのうちの一つです。

政治の動向と活動家の働き

政治改革の進展により、LGBTQ+の権利を求める活動も表面化するようになりました。かつては全ビルマ学生民主戦線のような民主化運動組織内で同性愛の非犯罪化が決議されるなど、活動の萌芽はありましたが、政治的な抑圧が強い時代でした。2015年に国民民主連盟（NLD）が政権を握り、人権改善を公約した際、リーダーであるアウンサンスーチーは過去に同性愛の非犯罪化を訴えたことがありましたが、実際にLGBTQ+に関連する法律が改正されることはありませんでした。

それでも、国内外のLGBTQ+活動家たちは、社会的な受容や寛容の気運が世界的な潮流に合わせて徐々に広がりつつあると指摘しています。インターネットの普及なども情報の拡散に寄与する可能性がありますが、2005年の研究ではLGBTQ+関連サイトへのアクセスが政府によってブロックされていた事例もあり、デジタル空間での自由も完全に保証されているわけではありません。

ミャンマーのLGBTQ+コミュニティは、法的な保護が不十分であり、保守的な社会規範の中で多くの課題に直面し続けています。しかし、政治状況の変化に伴う市民社会の活性化により、少しずつではありますが、彼らの存在が社会の中で認識され、権利向上に向けた動きも見られるようになっています。今後の法改正や社会全体の意識の変化が、彼らの状況を改善していく鍵となるでしょう。

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