ミュシア

ミュシア（Μυσία, Mysia）は、古代アナトリア半島（現在のトルコ）北西部に位置した地域です。プロポンティス海（現在のマルマラ海）の南に広がり、東はビテュニア、南東はフリギア、南はリディア、南西はアイオリス、西はトローアスと国境を接していました。古代にはミュシア人、フリギア人、アイオリス人、ギリシア人などが居住していました。

ミュシアの国境は時代によって変動し、特にフリギアとの境界は曖昧でした。トローアスをミュシアに含めることもあり、その範囲を明確に定義することは困難です。一般的に、北部は小ミュシア（Mysia Minor）またはHellespontica、南部は大ミュシア（Mysia Major）またはPergameneとして区別されます。

地理

ミュシアの地形は山がちで、北部にはオリンポス山（標高2543m、現在のウル・ダー）とイダ山（標高1774m、現在のカズ・ダー）がそびえ立っています。これらの山々はリディアとの境界を形成し、南にはアドラミュティオン湾（現在のエドゥレミット湾）まで伸びるテムノス山（現在のDemir Dağ）がありました。

主要な河川としては、マケストス川（現在のSusurluk Çayı）とリュンダコス川（リンダクス川、現在のAdırnaz Çayı）が挙げられます。これらはリディアを源流とし、プロポンティス海に近いアポロニア（Apollonia）の湖で合流します。また、南部のカイコス川（現在のBakırçay）はテムノス山を源流とし、ペルガモンを経てエーゲ海に流れ込んでいました。さらに、北部にはマケストス川に注ぐ二つの大きな湖、Artynia（またはApolloniatis、現在のApolyont Gölü）とAphnitis（現在のマニヤス湖）がありました。

都市

ミュシアで最も重要な都市は、カイコス川の谷に位置するペルガモンと、マルマラ海沿岸のキジコス（またはキュジコス、キジクス）です。沿岸部にはギリシア人の町が点在し、北部にはパリオン、ランプサコス、アビュドス、南部にはアッソス、アドラミュティオンがありました。エライア湾には、エライア、ミュリナ、キュメなどの都市が栄えました。

神話

ギリシア神話のトロイア戦争に関する叙事詩環には、ギリシア艦隊がトロイと間違えてミュシアに上陸するエピソードがあります。ミュシア王テレポスはギリシア兵と戦い、アキレウスに負傷させられます。この沿岸地域はテウトラニアとも呼ばれ、テレポス以前にはテウトラス王が支配していました。

一方、ホメーロスの『イーリアス』では、ミュシアはトロイの同盟国として描かれています。ミュシア軍はクロミスと予言者エンノモスによって率いられていますが、ホメーロスはミュシアの位置については具体的に言及していません。

ミュシアは、古代史において重要な役割を果たした地域であり、その地理的特徴、都市、神話との関連を通じて、当時の文化や社会を理解する上で重要な手がかりを提供してくれます。

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