ミリイ・バラキレフ

ミリイ・アレクセーエヴィチ・バラキレフ（1837年1月2日 - 1910年5月29日）は、ロシアの作曲家であり、ピアニスト、指揮者としても活躍しました。今日では、彼の作品そのものよりも、ロシア国民楽派「ロシア五人組」の指導者・まとめ役としての業績で広く知られています。

生涯

ニジニ・ノヴゴロドで生まれたバラキレフは、幼少期から母親にピアノの手ほどきを受け、その後、ジョン・フィールドの弟子であるアレクサンドル・デュビュークに師事しました。さらに、作曲家カール・トラウゴット・アイスリッヒの息子でピアニストのカール・アイスリッヒの下で研鑽を積み、彼の紹介でモーツァルトの伝記作家ウーリビチョフから音楽教育を受けました。

18歳でサンクトペテルブルクに移り住み、大学で数学を専攻する傍ら、ウーリビチョフの紹介でミハイル・グリンカと知り合いました。この出会いが、バラキレフの音楽家としての人生を大きく方向づけることになります。1862年には、バラキレフを中心にツェーザリ・キュイらが集まり、無料音楽学校を設立しました。この学校は、ロシアの音楽教育の発展に大きく貢献しました。

1869年、バラキレフは帝室宮廷礼拝堂の監督と帝国音楽協会の指揮者に任命され、その指導力と発言力から、ロシア音楽界における新たな運動の指導者としての役割を担うようになりました。彼は「五人組」のメンバーだけでなく、チャイコフスキーにも助言や批評を送り、彼の作品に影響を与えたことも知られています。

しかし、1870年代に入ると、無料音楽学校の経営難や演奏活動の失敗などが重なり、精神的に落ち込み、1874年に無料音楽学校の校長を辞任して以降、創作活動から遠ざかってしまいます。生活のために鉄道会社に勤務した時期もあり、この間の音楽活動の停滞が、彼の音楽界への影響力を失わせる一因となりました。

1881年に無料音楽学校の校長に復帰してからは、創作意欲を取り戻し、中断していた2つの交響曲などを完成させました。1883年には宮廷聖歌隊の長に任命されました。

1910年に亡くなった際には、未完のまま残された《ピアノ協奏曲第2番》などの作品を、弟子のセルゲイ・リャプノフが完成させました。バラキレフは、「五人組」の他のメンバーと同様に、サンクトペテルブルクのアレクサンドル・ネフスキー大修道院のチフヴィン墓地に埋葬されています。

作品の特徴

バラキレフの作品数は、一時的に音楽界から離れていたこともあり、多くはありません。しかし、彼の作品はロシア民謡の要素を色濃く反映しており、親しみやすい旋律が特徴です。特にピアノ曲では、ショパン、シューマン、リストからの影響が見られます。代表的なピアノ曲である「イスラメイ」は、その技巧的な難しさで知られています。また、2曲の交響曲も彼の重要な作品です。

バラキレフは、さまざまな音楽理論やドイツ・ロマン派音楽に精通していましたが、それがかえって自発的な創造性を阻害したという指摘もあります。「五人組」の指導者でありながら、その完成ペースは遅く、最初の交響曲を完成させるまでに33年もの歳月を費やしました。

世俗曲だけでなく、無伴奏の正教会聖歌も作曲しており、彼の音楽的才能の幅広さを示しています。近年、ケーネマン出版社から出版されたバラキレフのピアノ作品全集は、内容の充実さと価格の安さからベストセラーとなり、一時は入手困難になるほどでした。

代表的な作品

管弦楽曲・協奏曲

交響曲第1番 ハ長調
交響曲第2番 ニ短調
交響詩「タマーラ」
交響詩「ルーシ」
ピアノ協奏曲第1番 嬰ヘ短調
ピアノ協奏曲第2番 変ホ長調

ピアノ曲

ピアノソナタ第1番 変ロ短調
ピアノソナタ第2番 変ロ短調
イスラメイ（東洋風幻想曲）
7つのマズルカ
7つのワルツ
3つの夜想曲

室内楽曲

八重奏曲 ハ短調
チェロとピアノのためのロマンス ホ長調

声楽曲

カンタータ「ペテルブルクのグリンカ記念祭に」

正教会聖歌

諸預言者は預告せり（Свыше пророцы）


バラキレフは、ロシア音楽の発展に大きく貢献した人物であり、彼の作品は今も多くの人々に愛されています。彼の音楽は、ロシアの魂を映し出す鏡であり、その独創性と美しい旋律は、聴く人々の心を魅了し続けています。

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