ミリ秒パルサー

ミリ秒パルサーとは

ミリ秒パルサー（Millisecond Pulsar; MSP）は、非常に高速で自転する中性子星の一種で、その自転周期は1ミリ秒から10ミリ秒という極めて短い範囲にあります。これらのパルサーは、電波、X線、ガンマ線など、様々な波長で観測されており、宇宙における高エネルギー現象を理解する上で重要な役割を果たしています。

ミリ秒パルサーの形成

ミリ秒パルサーの起源はまだ完全には解明されていませんが、最も有力な説は、元々は比較的ゆっくりと自転していたパルサーが、連星系における降着過程で加速されたというものです。この理論では、低質量X線連星系において、伴星から流れ込んだ物質が中性子星に降り積もる際に、その角運動量が中性子星に伝達され、自転速度が劇的に上昇すると考えられています。

しかし、近年の研究では、標準的な進化モデルでは説明できない、強い磁場を持つ若いミリ秒パルサーの存在が明らかになってきています。このことから、ミリ秒パルサーの形成には複数のメカニズムが存在する可能性が指摘されていますが、その詳細はまだ不明な点が多いのが現状です。

球状星団との関連

多くのミリ秒パルサーは、星が密集している球状星団の中で発見されています。これは、球状星団内では連星系が形成されやすく、物質の降着による加速が起こりやすいためだと考えられています。現在、球状星団内では約130個ものミリ秒パルサーが発見されており、特にTerzan 5には33個、きょしちょう座47には22個と、非常に多くのミリ秒パルサーが集まっていることが知られています。

精密な観測による応用

ミリ秒パルサーは、その非常に正確な自転周期から、原子時計よりも高精度な時間計測が可能です。また、パルスの到着時間を精密に分析することで、周囲の天体の存在や質量を検出することができます。例えば、ミリ秒パルサーの周囲を公転する惑星の存在を、ドップラー効果による周期的なパルス到着時間の変化から知ることができます。実際、PSR B1257+12の周囲を公転する太陽系外惑星は、ミリ秒パルサーの観測によって初めて発見されました。この中には、月程度の質量を持つ非常に小さい惑星も含まれており、その観測技術の高さを示しています。

自転速度の限界

最初のミリ秒パルサーであるPSR B1937+21は、1秒間に約641回も自転しています。現在までに発見された最速のミリ秒パルサーはPSR J1748-2446adで、1秒間に716回も自転しています。理論的には、中性子星の自転速度には限界があり、1秒間に1500回程度を超えると自壊する可能性があると考えられています。また、1秒間に1000回を超えると、重力波の放出によってエネルギーを失うため、加速が鈍化すると予測されています。しかし、中には理論的な限界を超える速度で自転する中性子星の存在も示唆されており、今後の観測や研究によって、さらに詳しい解明が期待されています。

まとめ

ミリ秒パルサーは、その高速な自転、精密な時間計測能力、そして連星系における降着現象など、天体物理学における重要な研究対象です。その起源や進化、そして周辺環境に関する研究は、宇宙の謎を解き明かす上で重要な役割を担っています。

参考資料

"Pinning Down a Pulsar’s Age". Science News.
"How Millisecond Pulsars Spin So Fast". Universe Today.
"Fast-Spinning Star Could Test Gravitational Waves". New Scientist.
"Astronomical whirling dervishes hide their age well". Astronomy Now.
* Audio: Cain/Gay - Pulsars Astronomy Cast - Nov 2009.

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