ムタワッキル3世

ムタワッキル3世（アラビア語: المتوكل على الله الثالث, ラテン文字転写: al-Mutawakkil ʿAlā Allāh aṯ-ṯāliṯ、生年不詳 - 1543年）は、アッバース朝の第55代、すなわち最後のカリフとして歴史に名を刻んでいます。彼のカリフとしての在位期間は1508年から1517年までの短い期間でしたが、その時代は激動の時代でした。

当時、アッバース朝のカリフは、マムルーク朝の庇護下にありました。しかし、マムルーク朝は経済的にも軍事的にもオスマン帝国の脅威にさらされており、ムタワッキル3世の地位もまた、非常に不安定なものでした。マムルーク朝は、オスマン帝国の拡大に対抗するために苦心していましたが、その力は徐々に衰えを見せていました。

1517年、マムルーク朝はついにオスマン帝国によって滅ぼされます。この出来事は、ムタワッキル3世の運命を大きく左右することになります。彼は、オスマン帝国の皇帝セリム1世に庇護を求めざるを得なくなりました。

セリム1世は、ムタワッキル3世を丁重に扱いました。彼は、アッバース家のカリフであり、スンナ派ムスリムの精神的な指導者としての役割を担っていたからです。セリム1世はムタワッキル3世を帝都イスタンブールに住まわせましたが、次第にその存在を疎ましく思うようになります。

セリム1世は、ムタワッキル3世以降のアッバース家のカリフ位継承を認めず、事実上の監禁状態に置きました。これにより、アッバース朝のカリフとしての地位は、実質的に終焉を迎えることになります。

ムタワッキル3世は、1543年に失意のうちに亡くなりました。彼の死によって、アッバース朝は完全に滅亡し、その歴史に幕を閉じました。彼の生涯は、アッバース朝の栄光と没落、そして時代の大きな変化を象徴するものとして、歴史に刻まれています。

ムタワッキル3世の生涯は、単なる一人のカリフの物語にとどまらず、当時の政治的、宗教的な状況を反映しています。マムルーク朝とオスマン帝国の対立、そしてアッバース朝の衰退という歴史的な背景を理解することで、彼の人物像とその時代をより深く理解することができます。

もう一度検索