ムハンマド1世 (ナスル朝)

アブー・アブドゥッラー・ムハンマド1世：グラナダ王国建国者

アブー・アブドゥッラー・ムハンマド・イブン・ユースフ・イブン・ナスル、通称ムハンマド1世（1195年頃 - 1273年）は、ナスル朝グラナダ王国の創始者です。彼の建国したグラナダ王国は、イベリア半島における最後のイスラム教国として、その名を歴史に刻みました。

生涯と業績

イスラム勢力の衰退とレコンキスタ

8世紀初頭、ウマイヤ朝によってイベリア半島の大部分がイスラム勢力下に入り、アンダルスと呼ばれる地域が形成されました。しかし、半島北部からキリスト教国による国土回復運動（レコンキスタ）が激化し、13世紀にはイスラム勢力は大きく後退していました。

建国までの道のり

1232年、ムハンマド1世は自身の出身地アルホナでイブン・フードに対して反乱を起こし、アンダルスにおける一定の地位を確立します。その後、カスティーリャ王フェルナンド3世と同盟を結び、グラナダなどの都市を征服。1244年にはカスティーリャとの戦いに敗れるも、グラナダを新たな拠点とし、フェルナンド3世の宗主権を認めることで和平を結びました。

グラナダ王国の確立

その後、ムハンマド1世はカスティーリャの戦争を支援しながら、領土の支配を固めていきました。1264年にカスティーリャと決別し、内部のムスリム反乱を支援しますが失敗。晩年はカスティーリャやアシュキールーラ家との戦いに明け暮れ、1273年に落馬事故で亡くなりました。王国は息子のムハンマド2世に引き継がれました。

アルハンブラ宮殿

ムハンマド1世がグラナダに建設したアルハンブラ宮殿は、後継者たちによって増改築が重ねられ、グラナダ王国の文化と技術の粋を集めた建造物として発展しました。現在ではユネスコの世界遺産に登録され、多くの観光客が訪れる場所となっています。

生い立ち

ムハンマド1世は1195年頃、アルホナで生まれました。出自は低く、農民であったと伝えられています。しかし、若い頃から指導力を発揮し、その禁欲的な生活ぶりでも知られていました。

家族

従姉妹のアイーシャ・ビント・ムハンマドと結婚し、多くの子をもうけました。兄弟のイスマーイールはマラガの総督を務め、その子孫は後のナスル朝のスルタンとして権力を握りました。

イベリア半島の情勢

13世紀初頭、イベリア半島ではムワッヒド朝が内乱により分裂し、アンダルスは小勢力が割拠する状況でした。一方、キリスト教国はレコンキスタを進め、勢力を拡大していました。カスティーリャ王フェルナンド3世はコルドバやセビリアを征服し、イスラム勢力は衰退の一途をたどっていました。

台頭

イブン・フードの失墜後、ムハンマド1世は1232年にアルホナの独立を宣言し、勢力を拡大しました。カスティーリャのフェルナンド3世と同盟を結び、コルドバ征服を支援。1237年にはグラナダを首都と定め、半島南部の重要地域を次々と手中に収めていきました。

グラナダの支配者として

グラナダ定着

1238年、ムハンマド1世は質素な服装でグラナダに入り、アルカサバに居を構えます。そして、アルハンブラ宮殿の建設に着手し、防衛施設や灌漑設備を整備しました。

カスティーリャ王国との関係

1240年代、ムハンマド1世はカスティーリャと戦争状態に入りますが、1245年には和平を結びました。ハエンを割譲し、貢納金を支払う代わりに、20年間の和平を得ました。その後、カスティーリャのセビリア征服を支援するなど、協調関係を築きました。

カスティーリャとの決裂とムデハルの反乱

1260年代に入ると、カスティーリャの敵対的な行動が目立つようになり、ムハンマド1世はカスティーリャとの決別を決意します。1264年にはムデハルの反乱を支援しますが、失敗に終わりました。

アシュキルラ家との抗争

ムデハルの反乱中、アシュキルラ家がムハンマド1世に対して反乱を起こしました。ムハンマド1世はマラガを包囲しますが、アシュキルラ家を打倒できず、アルフォンソ10世との和平を結びました。

1273年1月22日、ムハンマド1世は落馬事故で亡くなりました。彼の遺体はアルハンブラ宮殿の東方にあるサビカの丘に埋葬されました。

死後の継承と後世への影響

ムハンマド1世の死後、息子のムハンマド2世が跡を継ぎ、グラナダ王国を統治しました。ムハンマド1世の最大の功績は、ナスル朝によるグラナダ王国の建国です。彼の王国は2世紀以上にわたり存続し、イベリア半島における最後のイスラム教国として繁栄しました。アルハンブラ宮殿は、彼の文化的な遺産として、現代にまでその美しさを伝えています。

ムハンマド1世は、激動の時代において、政治的な手腕と巧みな外交によってグラナダ王国を維持し、その文化的な繁栄をもたらしました。彼の生涯は、イベリア半島におけるイスラム文化の終焉と、新たな時代の幕開けを象徴するものと言えるでしょう。

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