ムワッヒド朝

ムワッヒド朝：北アフリカとイベリアを席巻したベルベル人の王朝

ムワッヒド朝は、12世紀にベルベル人のイスラム改革運動を背景に興ったイスラム王朝です。現在のモロッコを中心に、北アフリカの大部分とイベリア半島南部を支配しました。その名は「唯一神を信じる者たち」を意味し、神の唯一性（タウヒード）を重視する教義に由来します。ヨーロッパではアルモハード朝として知られています。

ムワッヒド朝の成立

ムワッヒド朝の起源は、イブン・トゥーマルトというベルベル人指導者の改革運動に遡ります。彼はムラービト朝のイスラム教のあり方を批判し、1121年に自らを救済者（マフディー）と宣言して反乱を起こしました。トゥーマルトの死後、弟子のアルムーミンが後を継ぎ、王朝としての基礎を築きます。アルムーミンは、マスムーダ族を懐柔し、その支持を得ることで勢力を拡大。カリフを名乗り、ムワッヒド朝を確立しました。

マグリブ・アンダルスへの進出

アルムーミンは、アトラス山脈を拠点にムラービト朝を攻撃し、1147年にマラケシュを占領して王朝を滅ぼしました。その後、イベリア半島のイスラム勢力からの要請に応じ、アンダルスへ進出。セビリアを拠点に、徐々に勢力を拡大していきました。1159年にはチュニジアにまで進出し、マグリブのほぼ全域を支配下に置きました。

アルムーミンは、アンダルスの都市開発にも力を入れました。サレの対岸にリバート（現在のラバト）を建設し、セビリアに次ぐ第二の首都として発展させました。1171年にはアンダルスに5年間滞在し、モスクや宮殿の建設を奨励するなど、文化的な発展にも貢献しました。

最盛期とその終焉

3代目の君主ヤアクーブ・マンスールの時代に、ムワッヒド朝は最盛期を迎えます。マンスールは、キリスト教勢力との戦いで勝利を重ね、領土を拡大しました。また、レオンやナバラといったキリスト教国と同盟を結び、カスティーリャを孤立させるなど、外交手腕も発揮しました。しかし、マンスールの死後、王朝は徐々に衰退に向かいます。キリスト教国の団結が進み、1212年のナバス・デ・トロサの戦いでムワッヒド朝は大敗。アンダルスでの支配力を失いました。

その後、後継者争いが勃発し、内乱が続きました。地方の総督やシャイフたちが権力を争い、王朝は分裂。マグリブでも反乱が相次ぎ、ハフス朝やマリーン朝といった新たな勢力が台頭しました。アンダルスでは、キリスト教国によるレコンキスタが進み、ムワッヒド朝は撤退を余儀なくされました。1269年、マリーン朝によってマラケシュが征服され、ムワッヒド朝は滅亡しました。

社会・経済・文化

ムワッヒド朝の支配下では、都市も地方も繁栄しました。灌漑工事が進められ、農業生産が向上。金や銀などの鉱物資源も豊富に産出され、経済発展を支えました。手工業や交易も発展し、イタリアやカタルーニャからの商人を引き寄せました。また、マンスールはセビリアの拡大やヒラルダの塔の建設など、建築事業にも力を入れました。文化面では、哲学や科学が奨励され、イブン・トファイルやイブン・ルシュドといった学者たちが活躍しました。

宗教・軍事

ムワッヒド朝は、タウヒードをイデオロギーとし、マスムーダ族を軍事的な支柱としました。しかし、次第にアラブ人やベルベル人、黒人、トルコ人などが軍の中枢を占めるようになり、軍隊の質は低下。宗教的な熱意も薄れていきました。また、ムワッヒド朝は宗教に不寛容な面があり、ユダヤ人を迫害したり、マーリク学派を弾圧したりしました。しかし、アンダルスの文化に触れるにつれて、カリフたちは信仰心を失い、民衆との乖離を招きました。

ムワッヒド朝は、短期間で広大な領土を支配し、文化・経済の発展に貢献しましたが、内紛や外敵の侵入により、最終的には滅亡しました。しかし、その遺産は、後の時代にも大きな影響を与えました。

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