ムラト5世

ムラト5世：短命に終わった改革志向の皇帝

ムラト5世（1840年9月21日 - 1904年8月29日）は、オスマン帝国の第33代皇帝として、1876年5月30日から同年8月31日までのわずか93日間在位しました。彼は第31代皇帝アブデュルメジト1世の長男であり、アブデュルハミト2世、メフメト5世、メフメト6世という、後に帝位を継ぐことになる3人の弟たちの兄でもありました。また、ムラト5世は、オスマン帝国のスルタンの中で唯一のフリーメイソン会員であったことでも知られています。

生涯

ムラト5世は、叔父である第32代皇帝アブデュルアズィズの退位後、帝位に即きました。彼は即位以前からヨーロッパの事情に明るく、ミドハト・パシャをはじめとする「新オスマン人」と呼ばれる立憲派から、帝国の近代化を担う人物として期待されていました。1867年には叔父の西欧旅行に随行した経験があり、その際に得た知識や見聞が、彼の西欧に対する理解を深めたと考えられています。立憲派との親密な関係は、時には彼らへの援助という形でも現れていました。しかし、このような立憲派との関係は、叔父であるアブデュルアズィズの警戒を招き、ムラト5世は長年にわたって監視される生活を送ることになります。

監視下での生活は、ムラト5世の精神を蝕み、彼は酒に溺れるようになりました。即位後も精神状態は回復せず、在位わずか93日で退位させられることとなります。その後、弟であるアブデュルハミト2世が帝位を継承しました。

退位後、ムラト5世はイスタンブールのチュラーン宮殿に幽閉され、1904年8月29日に生涯を閉じました。彼の短い治世は、オスマン帝国の近代化を巡る様々な思惑が交錯する時代を象徴するものとして、歴史に刻まれています。

ムラト5世の生涯は、オスマン帝国の衰退期における政治的な混乱と、西欧化の波に翻弄される帝室の姿を浮き彫りにしています。彼の悲劇的な運命は、帝国の近代化という課題の難しさを物語っていると言えるでしょう。


参考文献

アラン・パーマー(en)著、白須英子訳『オスマン帝国衰亡史』中央公論新社、1998年3月 ISBN 4120027619
http://www.bibliotecapleyades.net/sociopolitica/templars/knights_templars04.htm

関連項目

* オスマン帝国

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