アブデュルメジト1世

アブデュルメジト1世：オスマン帝国近代化の光と影

アブデュルメジト1世（1823年4月23日/25日 - 1861年6月25日）は、オスマン帝国の第31代皇帝（在位：1839年 - 1861年）として、激動の時代に帝国の舵取りを担いました。父であるマフムト2世の改革路線を継承し、タンジマートと呼ばれる広範な近代化政策を推進した一方で、クリミア戦争や外債導入など、帝国の財政を圧迫する出来事にも直面しました。

生涯：帝位継承とタンジマートの幕開け

1823年、イスタンブールのトプカプ宮殿で生まれたアブデュルメジト1世は、幼少期からヨーロッパ風の教育を受け、フランス語に堪能でした。文学や音楽にも造詣が深く、西欧文化に対する理解を深めました。

1839年、第二次エジプト・トルコ戦争中に父帝が崩御すると、16歳という若さで帝位を継承します。即位後、名宰相ムスタファ・レシト・パシャの協力を得て、ギュルハネ勅令を発布し、タンジマート（恩恵改革）と呼ばれる大改革に着手しました。この勅令は、法の下の平等、公正な裁判、国民の生命・財産の保護を謳い、オスマン帝国の近代化に向けた重要な一歩となりました。

タンジマート：多岐にわたる改革

アブデュルメジト1世の治世下では、行政、軍事、文化、財政、司法、教育など、多岐にわたる分野で改革が実施されました。

財政改革: 紙幣の導入、オスマン帝国中央銀行の設立、徴税請負制の廃止など、近代的な金融システムの確立を目指しました。
行政改革: 国勢調査の実施、戸籍制度の導入、身分証明書の制定など、国民管理の強化を図りました。
軍事改革: 軍隊の再編、非ムスリムの軍隊参加の容認など、戦力の近代化を推進しました。
法制度改革: フランスをモデルとした民法・刑法の制定、商取引法の制定、土地法の制定など、近代的な法体系の構築を目指しました。
文化・教育改革: 近代的な大学の設置、科学アカデミーの設立、文部省の設立、出版の自由の許可など、知識の普及と人材育成に力を入れました。
社会改革: 奴隷市場の廃止、非ムスリムの人頭税（ジズヤ）の廃止、同性愛の合法化など、社会の自由化と平等を促進しました。

これらの改革は、オスマン帝国社会に大きな変化をもたらし、近代化を推し進める原動力となりました。

文化政策：宮殿建築と芸術の奨励

アブデュルメジト1世は、文化政策にも力を注ぎました。イスタンブールにドルマバフチェ宮殿を建設し、オスマン帝国の新たな王宮としました。また、アヤソフィアモスクの修復や、イスタンブール初のフランス風劇場の建設など、文化施設の整備にも尽力しました。ターバンを禁止し、フェズを導入するなど、服装の近代化も推し進めました。

人道政策：亡命者保護と飢饉支援

アブデュルメジト1世は、人道的な側面も持ち合わせていました。ロシアのコーカサス侵攻やハンガリー革命の亡命者の引き渡しを拒否し、保護しました。また、アイルランドのジャガイモ飢饉の際には、イギリス政府の制限を受けながらも、穀物を満載した船を派遣し、被災地を支援しました。彼は民衆の声に耳を傾け、自ら各地を視察し、タンジマートの進捗状況を確認しました。

クリミア戦争：国際的地位の向上と外債導入

1853年、ロシア帝国の南下政策を背景に、クリミア戦争が勃発します。当初は苦戦を強いられたオスマン帝国でしたが、イギリス、フランス、サルデーニャ王国の支援を得て、最終的に勝利を収めました。この戦争を通じて、オスマン帝国の国際的地位は向上しましたが、同時に多額の戦費を要し、1854年には初めて外国からの借款（外債）に頼ることになりました。

晩年：改革の停滞と国内の混乱

1858年にムスタファ・レシト・パシャが死去すると、アブデュルメジト1世は政治への関心を失い、贅沢な生活に耽るようになりました。キリスト教徒への寛容策が反発を招き、国内各地で暴動が発生しました。1859年には廃位計画が発覚するなど、国内の不満が高まりました。

1861年、アブデュルメジト1世は結核により39歳で崩御し、弟のアブデュルアズィズが帝位を継承しました。

評価：近代化の功績と課題

アブデュルメジト1世の治世は、オスマン帝国の近代化を推し進めた一方で、外債導入や国内の混乱など、多くの課題を残しました。イギリスのトルコ大使ストラトフォード・カニングは、彼を「穏やかで憂いを持つ知的な風貌」と評しましたが、その期待は十分に叶えられなかったと指摘しました。しかし、タンジマートを通じて、オスマン帝国が一定の持ち直しを見せ、分権化の傾向に歯止めをかけたことは、評価されるべき点と言えるでしょう。

人物像：女好きの一面

アブデュルメジト1世は、かなりの女好きであったことでも知られています。22年間の在位期間中に、少なくとも25人の夫人がいたとされています。中でも、アブバジア人のセルフィラズハヌムがお気に入りだったと言われています。

アブデュルメジト1世の治世は、オスマン帝国の近代化における光と影を象徴する時代でした。彼の推進した改革は、帝国の将来に大きな影響を与え、その評価は今日に至るまで議論されています。

参考文献
アラン・パーマー著、白須英子訳『オスマン帝国衰亡史』中央公論新社、1998年。

関連項目
オスマン帝国
タンジマート
クリミア戦争
* ジャガイモ飢饉

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