ムルス・ダキクス

ムルス・ダキクス：古代ダキアの革新的城壁構築技術

ムルス・ダキクス（ラテン語: Murus Dacicus、「ダキア人の城壁」）は、ローマ帝国による征服以前のダキア王国で発展した、独特の城壁および要塞の構築理論です。この技術は、ダキア人の伝統的な建築様式と、ギリシャ・ローマ建築から取り入れた石工技術を融合させたものであり、他に類を見ない独自性を持っています。

ムルス・ダキクスの構造

ムルス・ダキクスの最大の特徴は、その独特な構造にあります。城壁は、以下の要素で構成されています。

外壁: 直方体に切り出された石のブロックを、モルタルを使用せずに積み上げた二重構造となっています。石材は平均的なものより大きく、壁の強度を高める役割を果たしています。
内部構造: 二つの外壁の間には、砂利、石、粘土、土などを混ぜたものが詰め込まれています。これにより、壁全体の水平方向への強度が増し、安定性が向上します。
* 繋ぎ梁: 外壁は、焦がした木製の繋ぎ梁で連結されています。これらの梁は、石のブロック上面に蟻継ぎという技法で固定され、壁全体の構造的な一体性を高めています。

ムルス・ダキクスの機能

ムルス・ダキクスの構造は、単に堅牢な壁を築くだけでなく、攻城兵器からの攻撃に対する防御能力を高めるように設計されています。壁は、投射物による衝撃を吸収し、その運動エネルギーを拡散させることで、壁の破壊を防ぎます。この柔軟性の高さが、ミュケーナイの巨大な石壁のような、硬直的な石壁よりも優れている点です。

建設と歴史的背景

ムルス・ダキクスの建設には、多くの労働力と時間が必要とされました。そのため、二度にわたるダキア戦争の合間には、急ごしらえで建設されたものも存在します。しかし、典型的なムルス・ダキクスは、厚さ3-4m、高さ10mにも達し、当時の技術水準から見ても非常に優れたものでした。

世界遺産とムルス・ダキクス

ムルス・ダキクスは、その歴史的・文化的価値が認められ、ユネスコの世界遺産に登録されている「オラシュチエ山脈のダキア人の要塞群」（ルーマニア）に見ることができます。また、ローマのトラヤヌスの記念柱にも、ムルス・ダキクスで構築された城塞が描かれており、その姿を垣間見ることができます。

ムルス・ダキクスは、古代の建築技術における革新的な成果であり、ダキア王国の繁栄を支えた重要な要素の一つと言えるでしょう。

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