ダキア戦争

ダキア 戦争

ダキア戦争は、101年から102年、および105年から106年の2回にわたるローマ帝国とダキア人との間の戦争です。ドミティアヌス帝の時代にもダキア人との戦争があり、これを含めてダキア戦争と呼ぶこともあります。

背景

紀元前70年にブレビスタ王がダキアを統一し、ローマにとって大きな脅威となりました。しかし、ブレビスタの死後、ダキアは部族ごとに分裂し、弱体化しました。個々の部族によるローマ領内への侵入はあったものの、ローマは内戦や属州での反乱に対応する必要があり、ダキアとの間で大規模な戦争には至りませんでした。

その後、ダキアは再び統一され、86年には属州モエシアを含むドナウ川流域のローマ帝国領への本格的な侵入が相次ぎました。これに対し、ローマ皇帝ドミティアヌスは親衛隊長コルネリウス・フスクスを軍と共にモエシアへ派遣しました。87年、デケバルスを王とするダキアに対し、ドミティアヌスは戦端を開くことを決定し、ローマ軍はタパエ近郊でダキア軍と激突しましたが、ダキア軍が勝利し、フスクスは戦死しました。88年、ローマはティトゥス・ユリアヌスを指揮官としてダキア領へ再度侵攻し、今度はローマ軍が勝利を収めました。しかし、ゲルマニア・スペリオル属州総督ルキウス・アントニウス・サトゥルニヌスによる反乱が起こったため、ローマはダキアと平和協定を締結することで合意しました。この協定には、ローマがダキアへ賠償金を支払う条項が含まれており、ローマにとって屈辱的な内容でした。

経過

1度目の戦争（101-102年）

休戦協定締結後も、デケバルスはモエシアなどドナウ川流域のローマ属州への侵入を繰り返しました。また、ローマは度重なる軍事行動による財政難を、ダキアが産出する金や銀などの鉱物資源によって再建しようと考えました。さらに、領土拡張に慎重だった歴代ローマ皇帝と異なり、98年に即位したトラヤヌスは積極的な姿勢を持っていました。これらの要因が重なり、トラヤヌスとローマはダキアへの本格的な軍事作戦を決意しました。

101年、元老院からダキア討伐の支持を得たトラヤヌスは、ダキアへ親征しました。ローマ軍はドナウ川を渡り、102年のタパエの戦いでダキア軍に勝利を収めました。デケバルスはその後も抵抗を続けましたが、最終的にローマ軍に降伏しました。

休戦期（102-105年）

トラヤヌスはダキアを将来的に征服すべき相手と見ており、ダマスカスのアポロドーロスに設計させたトラヤヌス橋は、来るべき戦争に備えて設けられたものでした。一方、デケバルスも一時的に休戦協定に応じ、北方・東方のゲルマン人への対処のためにローマから軍事・技術面での支援を受けましたが、その支援の多くはダキア自身のために使われました。降伏後しばらくはデケバルスもローマに対し従順でしたが、やがてダキア諸部族を率いて兵を挙げ、ドナウ川流域のローマ属州を次々に襲撃し、略奪を繰り返しました。

2度目の戦争（105年-106年）

105年、デケバルスが協約違反を繰り返したことを理由に、トラヤヌスはダキアを討つべく再度ダキアへ親征しました。

ダキア軍は地の利を活かして抵抗しましたが、戦況はローマ軍優位に進みました。106年初夏より、ローマ軍はダキアの首都サルミゼゲトゥサに対する攻撃を開始し、水道網の破壊工作が成功したことがきっかけとなり、サルミゼゲトゥサは陥落しました。デケバルスは首都から逃れましたが、ローマ軍の追撃を受け、捕虜となることを拒んで自ら命を絶ちました。

影響

ダキア戦争はローマの勝利に終わり、トラヤヌスはローマ市内で凱旋式を挙げました。ダキアから産出される鉱物資源は、トラヤヌスによるその後の遠征の資金源となり、首都ローマ市をはじめとするローマ統治下の各都市の発展に大きく貢献しました。ダキア人の男性捕虜10万人は奴隷としてダキアから追い出され、代わりにローマ人が入植したことでダキアのローマ化が進みました。

ダキアには属州が置かれ（ダキア属州）、サルミゼゲトゥサは属州の州都となりました。ダキア属州は、皇帝アウレリアヌスによって放棄されるまでの約160年間、ローマ帝国に属しました。

トラヤヌスは『ガリア戦記』を記したユリウス・カエサルに倣い、自らダキア戦争の経過を記した『ダキア戦記』を執筆しましたが、これは散逸しています。ダキア戦争の一連の経緯は、トラヤヌスのフォルムにあるトラヤヌスの記念柱にレリーフとして刻まれています。

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