メアリー・バーラ

メアリー・バーラ（Mary Barra, 1961年 12月24日生）は、アメリカ合衆国の著名な実業家であり、自動車産業大手ゼネラルモーターズ（General Motors Company, GM）の現最高経営責任者（CEO）です。同社史上初の女性CEOとして、また工場現場出身という異色の経歴を持つリーダーとして知られています。

生い立ちと初期のキャリア

バーラは1961年、ミシガン州に生まれました。GMの主要な生産拠点が集中するデトロイト近郊、ウォーターフォード・タウンシップで育ちました。彼女の父親は、GMのポンティアック部門で金型工として勤務しており、早くから自動車産業に触れる環境にありました。1979年に高校を卒業後、彼女はGMが設立・運営していた職業学校「ゼネラル・モーターズ・インスティチュート」（現在のケタリング大学）に進学しました。この学校では電気工学を専攻する傍ら、ポンティアックでのインターンシップとしてGMの工場で実務経験を積みました。

学校卒業後、彼女はそのままGMに入社しました。初期は技術畑で経験を重ねましたが、更なるキャリアアップを目指し、1990年にはスタンフォード大学で経営学修士（MBA）を取得しました。MBA取得後にGMへ復帰すると、彼女は着実に昇進を重ね、エンジニアリング分野をはじめとする重要なポストを歴任しました。2011年2月には、グローバル製品開発を担当するシニアバイスプレジデントに就任し、世界中の製品戦略を統括する立場となりました。さらに2013年8月にはエグゼクティブバイスプレジデントに昇格するなど、その能力とリーダーシップが高く評価されていきました。

GM初の女性CEOとして

2014年 1月15日、当時の会長兼CEOであったダン・アカーソンが退任するにあたり、後任のCEOとしてメアリー・バーラが指名されました。これは、100年以上の歴史を持つGMにおいて、初めて女性がトップに就任するという画期的な出来事でした。

バーラがCEOに就任する前年の2013年には、リーマンショック後の経営危機による政府管理下から解放され、GMは新たに生まれ変わったばかりでした。新生GMのリーダーとして期待を集めていましたが、就任直後の2014年には、過去の点火スイッチの不具合に関する大規模な欠陥製品のリコールに関する隠蔽問題が表面化しました。この問題は多数の死傷者を出しており、GMの信頼性を根底から揺るがすものでした。自身は直接的な隠蔽には関わっていなかったものの、長年GMに在籍し、技術部門出身者として責任を問われる厳しい状況に置かれました。

バーラは問題解決に向けて積極的に取り組み、内部調査の実施、被害者への補償、安全文化の徹底などの対策を講じました。2015年にこの問題に関する和解が成立した際、彼女は全従業員に向けて「我々の任務はこの経験から教訓を得て、会社を良くするために使うことだ」と語りかけ、企業文化の改革への決意を示しました。

困難な課題に直面する一方で、バーラのリーダーシップの下、GMの業績は着実に回復・向上していきました。彼女のCEO就任後3年間で、GMが計上した利益は約220億ドルに達するなど、その経営手腕が高く評価されることとなりました。

将来戦略と社会的な注目

バーラは単なる業績回復にとどまらず、自動車産業の将来を見据えた大胆な戦略を打ち出しました。2017年には、将来的に自動車生産を全面的に電気自動車（EV）へ転換していくという目標を発表し、業界内外に大きな影響を与えました。また、EV開発を加速するため、2020年には日本の本田技研工業株式会社と提携し、共通のバッテリー技術を用いた次世代EVの共同開発を発表するなど、戦略的なアライアンスも推進しています。

その影響力の大きさから、バーラは国際的にも注目を集めています。2015年には、アメリカのフォーブス誌が毎年発表する「世界で最も影響力のある女性100人」のランキングで5位に選出されました（前年は7位）。また、2016年のアメリカ大統領選挙期間中、民主党候補ヒラリー・クリントン陣営のメールがハッキングされ、ウィキリークスによって公開された副大統領候補のリストに、30人以上の名前とともにメアリー・バーラの名も含まれていました。これは、彼女が政界からも注目されるほど、アメリカ社会において影響力のある存在となっていることを示唆する出来事でした。

メアリー・バーラ