メイカーズムーブメント

メイカームーブメントとは

メイカームーブメントは、デジタル技術を活用した個人によるモノづくりの動きを指します。これは、単に趣味の範囲を超え、新たな産業革命とも称されるほどの大きな変革をもたらしています。

メイカームーブメントの定義

メイカームーブメントは、クリス・アンダーソンによって提唱された概念で、「ウェブ世代が現実世界と交わること」と定義されています。具体的には、デジタルファブリケーション（デジタル製造）技術、例えば3Dプリンターやレーザーカッターなどを使い、個人が自由にモノづくりを行う潮流を指します。

このムーブメントは、従来の大量生産モデルとは異なり、個人がアイデアを形にし、それを世界中の仲間と共有し、共に創造していくことを可能にしました。そのため、「メイカー革命」と呼ばれることもあります。

メイカームーブメントの歴史

メイカームーブメントの背景には、以下の3つの転機があります。

1. 1980年代のパーソナルコンピューターの登場：個人がコンピューターを所有し、デジタル技術に触れる機会が増えました。
2. 1990年代のウェブ時代の到来：インターネットを通じて情報共有やコミュニケーションが容易になり、アイデアの共有が加速しました。
3. 2006年頃からのデジタルファブリケーションの普及：3Dプリンターなどのデジタル工作機械が個人でも利用できるようになり、モノづくりが身近になりました。

2006年には、メイカーたちの祭典である「Maker Faire」が初めて開催され、DIY精神を持つ人々が交流する場となりました。これは、テクノロジー系DIY専門誌『Make:』の発行元であるMaker Media社が主催したもので、雑誌の読者同士が交流するための場として始まりました。

メイカームーブメントによって実現可能になったこと

メイカームーブメントによって、以下の3つのことが実現可能になりました。

1. デジタル工作機械の普及：3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタル工作機械が家庭や個人でも利用できるようになり、専門知識がない人でもモノをデザインできるようになりました。
2. オープンイノベーションの推進：デザインされたアイデアをオンラインコミュニティで共有し、世界中の仲間と共創できるようになりました。
3. 低価格・小ロット生産の実現：世界中の製造ソーシング会社をネット経由で利用することで、アイデアを低価格・小ロットで生産できるようになりました。

これらの変化により、誰もが製造業の起業家になれる時代となり、製造業が民主化されました。これにより、従来の大量生産モデルでは作れなかった、世界が求める製品を生み出すことが可能になりました。

詳細な解説

3Dプリンターの可能性

3Dプリンターの登場により、従来は金型が必要だったものが個人で製作可能になりました。また、一点からでも出力できるため、小さなロットへの対応も柔軟にできます。造形の自由度が飛躍的に高まり、複雑な形状も一体成型で作成できます。

例えば、人体の3Dスキャンデータを用いて、手術のシミュレーション用の病変組織のレプリカを作成したり、義足などの人工装具を作ることも可能です。また、従来のモノづくりに比べて多くの工程を省略できるため、大幅なスピードアップとコスト削減も実現しました。

オープンソースハードウェアの普及

Arduinoなどの手軽なオープンソースハードウェアの登場により、個人や小規模チームでも製品開発が可能になりました。このような制作行為はパーソナルファブリケーションと呼ばれ、ソーシャルウェブの普及によって、個人製造の結果が社会を変える発明につながる「発明の民主化」も起きています。

メイカームーブメントと社会

ソーシャルなモノづくりが可能になったことから、メイカームーブメントはオープンイノベーションの一種とみなされています。また、物理的なものを介する点から、リアルスペースやイベントとの関係も深く、ハッカースペースやメイカースペース、そしてMaker FaireのようなDIYイベントが世界各地で開催されています。

個人がゼロから何かを作る行為は教育にも影響を与え、また「自分の作りたいもの」を作る動きは、副次的に製品開発にも影響を与えています。

各国でのメイカームーブメント

Maker Faireは世界各地で開催されており、国ごとに特色があります。アメリカのサンフランシスコやシリコンバレーエリアで行われるMaker Faire Bay Area、台湾のMaker Faire Taipei、中国のMaker Faire Shenzhen、タイのMaker Faire Bangkok、香港のMaker Faire Hong Kongなどがあります。

日本におけるメイカームーブメント

日本では、Maker Faire Tokyoという名称で毎年メイカーイベントが開催されています。2011年まではMake Tokyo Meetingという名称でしたが、2012年からは本国と方式を合わせる形で名称が変更されました。

また、Maker Faireは地方にも波及しており、これまでに岐阜県、京都府、山口県、茨城県などでも地方版のMaker Faireが開催されています。その他にも、各地で類似のイベントが自主的に開催されています。

メイカームーブメントの中でのビジネス

ハードウェアスタートアップ

個人または個人ベースでハードウェアを開発・販売するビジネスは、ハードウェアスタートアップと呼ばれています。以前は、ハードウェアは販売前に投資して開発・製造する必要があったため、スタートアップが事業として行うのは困難でしたが、近年はオープンソースハードウェアの普及により開発速度が向上し、クラウドファンディングによる資金調達も可能になり、アクセラレータなどの支援も充実したことで、メイカームーブメントに注目が集まっています。

アクションカメラのGoProやスマートウォッチのPebbleなどが代表的なハードウェアスタートアップです。

メイカー向けサービス

メイカーやハードウェアスタートアップに向けて、部材の販売、シェアオフィスの提供、投資やスクールなどを提供するビジネスも展開されています。DMM.make AKIBAやFabCafe Tokyoなどが、工作機械やネットワークなどメイカー向けの環境を提供しています。

また、ハードウェアスタートアップは量産化に失敗する割合が高いとのデータもあるため、メイカー向けの量産化支援サービスも存在します。

デジタルファブリケーション機器を備えた工房全般で、一定の基準を満たすとファブラボの名称を用いることができます。

まとめ

メイカームーブメントは、デジタル技術を活用した個人によるモノづくりの動きであり、製造業の民主化、イノベーションの加速、新しいビジネスモデルの創出など、多岐にわたる影響をもたらしています。

このムーブメントは、今後も技術の進歩とともに、さらに進化していくことが予想されます。

参考書籍

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる
週刊東洋経済 2013年 1/12号
ものづくり革命パーソナル・ファブリケーションの夜明け
メイカーズのエコシステム