めがねレンチ

めがねレンチとは

めがねレンチ（Ring Spanner）は、ハンドルの両端にボルトやナットを締めたり緩めたりするための円形の口部を持つ工具です。その形状が眼鏡に似ていることからこの名前が付けられました。英語では、ボルトやナットの頭部を全周で囲むことから「ボックスエンドレンチ(Box end wrench)」と呼ばれます。また、「Box spanner」とも呼ばれることもあります。

JIS規格では「Offset wrenches（オフセットレンチ）」と表記されています。

特徴

めがねレンチは、自動車などの機械の整備作業で頻繁に使用される工具の一つです。多くの場合、使いやすさを考慮して、口部に対してハンドルに角度が付けられています。ボルトの側面6点に力が加わるため、2点にしか力が加わらないスパナと比較して、より大きなトルクをかけることができ、ボルトをなめにくくなっています。

口部には六角形のものと十二角形（二重六角）のものがありますが、市場に出回っているほとんどは十二角形です。六角形のものは、限られたメーカーしか製造していません。レンチは外側が円形、内側が六角ナットを掴むための6の倍数角となっています。全周を囲む形状でありながら、肉厚が薄いため、スパナよりも狭いスペースで作業が可能です。また、スパナのように開口部がないため、破損しにくく、スパナよりも大きなトルクをかけることができます。

ただし、レンチがボルトやナットに対して斜めになった状態で使用すると、角部を損傷させる可能性があります。そのため、使用時にはレンチの先端が完全にボルトやナットの側面を覆い、斜めになっていないことを確認する必要があります。また、ボルトがナットから突き出ている場合、めがねレンチが挿入できず使用できない場合があります。

サイズと形状

めがねレンチには、スパナと同様に標準的なメートル法のサイズがあります。サイズの呼び方は、両方の二面幅寸法を小さい順に「10×12」のように表記します。レンチの形状は、柄部まで含めてストレートなものもありますが、柄部に角度を付けたオフセット形状が一般的で使いやすいです。

頭部に対する柄部の角度は、JIS規格では15度、45度、60度が規定されていますが、30度のものも存在します。オフセットの角度が大きいほど、ハンドルが障害物に当たらず、円を描くようにレンチを回すことができるため、作業効率が向上します。めがねレンチは、スパナのように二面幅の2箇所で力を受けるのではなく、4、6、8、12、または16箇所で力を受けます。

六角と十二角

六角形と十二角形のめがねレンチは、一般的に良く見られるものです。六角形は、ボルトやナットの平面部分を掴むように設計されています。一方、十二角形のものは、ボルトやナットの角を掴むように設計されています。十二角形は、角を丸めやすいというデメリットがありますが、六角形よりも少ない回転角度でボルトを回せるため、狭い場所での作業に適しています。

六角形のめがねレンチは、最初にボルトを緩めたり、最終的な締め付けを行う際に、より大きなトルクをかけるために使用します。これは、ボルトの角を潰すリスクが少ないためです。一方、十二角形のめがねレンチは、狭い場所でボルトを回す必要がある場合に使用します。

六角のめがねレンチでボルトを回すためには、60度の回転角度が必要です。そのため、狭い場所では、この角度を確保することが難しい場合があります。

注意点

めがねレンチの接触部が摩耗した場合、レンチを交換する必要があります。接触部が摩耗したレンチを使用すると、ボルトやナットの角を傷つける可能性が高まり、レンチ自体の損傷にもつながります。また、レンチとボルト、ナットの間にガタつきがあると、荷重がかかった際に点接触となり、角部の損傷やレンチの摩耗を早めることになります。

フランクドライブ

この問題を解決するために、スナップオンが1960年代に開発したのが「フランクドライブ」という技術です。これは、ボルトやナットの角ではなく、平面部分で接触するように設計することで、応力集中を抑え、より確実な締め付け作業を可能にする技術です。この技術は、現在では多くのメーカーで採用され、めがねレンチの主流となっています。

めがねレンチの種類

ショートめがねレンチ: 全長が短いタイプで、狭い場所での作業に適しています。大きなトルクをかけることはできませんが、取り回しがしやすいです。
ストレートめがねレンチ: オフセットがないタイプで、上下のスペースがない場所で使用されます。
ロングめがねレンチ: 全長が長く、大きなトルクをかけることができます。特に長いものは「超ロングめがねレンチ」と呼ばれることもあります。
ラチェットめがねレンチ: 口部にラチェット機構を備えたタイプです。連続的な作業が容易で、電設工事や軽作業でよく使用されます。板ラチェットとも呼ばれます。
フレアナットレンチ: 口部に切り欠きがあり、パイプを跨いでナットを回すことができます。ブレーキパイプなど、パイプの接続部のナットを回す際に使用されます。
コンビネーションレンチ: 片側がスパナになっているタイプです。リング側で高トルク作業、スパナ側で早回し作業など、1本で効率よく作業できます。

参考文献

青山元男『DIY工具選びと使い方』ナツメ社、2008年
技能士の友編集部『作業工具のツカイカタ』大河出版、2002年