メガプテリギウス

メガプテリギウス：日本の海に生きた巨大な翼竜

メガプテリギウス（学名: Megapterygius）は、約7200万年前の後期[[白亜紀]]に、現在の日本列島に生息していた絶滅した海棲爬虫類です。モササウルス科に属し、その化石は2006年に和歌山県有田川町で発見されました。2023年には、小西卓哉氏らの研究チームによって、新属新種として正式に記載・命名されました。

発見と命名

2006年2月、当時京都大学大学院生であった御前明洋氏が、和歌山県有田郡有田川町の鳥屋城山で化石を発見しました。この場所は、約7200万年前の地層である上部白亜系外和泉層群鳥屋城層にあたります。御前氏は、アンモナイトや二枚貝の化石を探していたところ、岩石の表面で海綿骨の構造を発見し、その年代と大きさから海棲爬虫類の骨化石と特定しました。

この発見を受け、御前氏は京都大学の松岡廣繁氏と和歌山県立自然博物館の小原正顕氏に相談し、共同調査を実施しました。その結果、モササウルス類の後肢や椎骨を含む複数の岩石が発見され、特に後肢は関節した状態で保存されていました。関節した状態の後肢の発見は、他の部位の骨も付近に保存されている可能性を示唆しました。

岩盤が非常に固いため、重機を用いた追加発掘調査が2010年12月に開始されました。作業道の整備や土砂の除去作業を経て、本格的な調査が開始されました。岩盤が強固であったため、現地でのクリーニングは不可能で、発掘では岩盤を崩して化石の有無を確認し、化石が発見された場合は化石の分布状況を整理して地層を露出させ、化石の分布範囲内と推定される岩石を全て回収するという手法が採用されました。

2011年3月まで実施された追加調査では、多くの部位が得られました。発掘には92日間を要し、小原氏、御前氏、松岡氏、京都大学の学生、そして5人の作業員が参加しました。回収された化石は母岩に覆われていたため、最初は部位の特定が困難でしたが、クリーニング作業を経て、ほぼ完全な下顎を含む頭骨、関節した椎骨、肋骨、前後の肢など全身の約80%の骨が発見されました。特に頭蓋骨には脳幹や上顎骨の一部が含まれており、また前肢と後肢が揃って産出したことは、アジアで初めてのことでした。

2012年からは小西氏を筆頭著者とした研究チームが加わり、回収された標本は2023年12月に Megapterygius wakayamaensis（メガプテリギウス・ワカヤマエンシス）と命名されました。属名の Megapterygius は「大きな翼」を意味し、種小名の wakayamaensis は化石が産出し、現在保管されている和歌山県に由来しています。また、和名としては「ワカヤマソウリュウ（和歌山滄竜）」と呼ばれています。

特徴

メガプテリギウスの推定全長は約6メートルで、頭骨長は約80センチです。2009年の記者発表時には全長8メートル以上とされていましたが、後に完全な歯骨が確認されたことで推定値が修正されました。

頭部は比較的小さく、顎の骨が細く、歯も細いのが特徴です。目は前を向いており、両眼視が可能でした。モササウルス類で両眼視ができる目が報告されたのは、これが2例目です。

この属の最も重要な特徴の一つは、背鰭が存在した可能性を示唆する点です。メガプテリギウスの胴椎の神経棘は、基本的に後側に傾斜していますが、第17胴椎から第21胴椎の神経棘は前側へ屈曲しており、この特徴は背鰭が存在した可能性を示唆しています。背鰭はまだ仮説的なものですが、神経棘の特徴は重心の後ろに背鰭を持つハクジラに類似しています。これは、モササウルス類に背鰭が存在する可能性を示唆する初めての例となります。

また、第13胸肋骨以降の胸肋骨が急速に短縮していることや、前肢の運動を補助する背筋が付着する胴椎の神経棘が発達していることも特徴的です。属名の由来となった鰭は、頭蓋骨よりも長く、後肢の鰭は前肢の鰭よりも大きいです。指骨の狭窄が顕著であり、上腕骨の近位端は広大な円状面積を示すドーム型をしており、可動域が広い構造になっています。巨大な鰭は水中での機敏な動きを可能にし、前肢は迅速な活動に、後肢は急な潜水や浮上に役立ったと考えられます。推進には主に前肢が使われたと推測されています。

尾鰭については、他のモササウルス類と同様に存在したと考えられますが、メガプテリギウスの場合、尾鰭は高速遊泳や方向転換の際に補助的な役割を担っていたと考えられています。

分類

（記載論文でのクラドグラムは省略）

古環境

鳥屋城山からは、アンモナイト、二枚貝、巻貝などの軟体動物、ウニ、ヒトデ、ウミユリなどの棘皮動物、カニやサメなど、メガプテリギウスと共存していた生物の化石が発見されています。特に、アンモナイトの Pachydiscus awajiensis は、生層序年代の特定に役立ちました。

また、メガプテリギウスの骨の周囲にツノザメ目の脱落歯が集中していることから、死後、ツノザメが死骸を漁っていた可能性が示唆されています。

東アジア域のモササウルス類の化石は、日本以外では発見されておらず、メガプテリギウスの化石は、日本産モササウルス類の中でも特に保存状態が良く、学術的価値が高いとされています。今後の研究によって、モササウルス類の進化や生態に関する新たな発見が期待されます。

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