メクラチビゴミムシ

メクラチビゴミムシ

メクラチビゴミムシは、チビゴミムシ亜科に属するゴミムシの一群で、地下環境への適応の結果、複眼を失ったものの総称です。かつては洞窟での進化と考えられていましたが、近年の研究により、土壌より下の地下浅層と呼ばれる、風化した岩石の隙間に適応して進化した昆虫であることが明らかになりました。そのため、洞窟だけでなく、地下の広い範囲に生息しています。

特徴

地下浅層の岩石間の複雑なネットワークに生息するため、地域ごとの個体群が隔離されやすく、狭い地域に固有の種が分化しやすい傾向があります。日本だけでも2族30属300種以上が確認されており、その多様性が特徴です。

洞穴生物一般に見られるように目が退化していますが、その代わりに、感覚毛が長く伸びて発達しており、触覚やその他の感覚で周囲の状況を把握していると考えられます。

研究の歴史

メクラチビゴミムシ類をはじめとする洞穴性甲虫の研究は、元国立科学博物館の上野俊一氏によって大きく進展しました。彼の洞穴生物学の研究は、洞穴生物の生物学的な位置づけに新たな視点をもたらし、洞穴固有と考えられていた多くの地下適応生物が、洞穴以外の地下浅層にも広く生息していることを明らかにしました。

上野氏による研究は、日本産メクラチビゴミムシ類の分類において重要な貢献をしており、新種記載された多くの種が彼によって報告されています。

生息状況と保護

近年、多くのメクラチビゴミムシ類がレッドリストに掲載されるようになり、その保全が課題となっています。生息地が極めて狭い範囲に限られている種も多く、環境破壊の影響を受けやすいのが現状です。

絶滅危惧種

カドタメクラチビゴミムシ (Ishikawatrechus intermedius)：かつて高知県の石灰洞で発見されましたが、石灰岩採掘による生息地の破壊により絶滅が宣言されました。しかし、近年になり原記載地付近の地中から再発見され、絶滅危惧I類に下方修正されました。
コゾノメクラチビゴミムシ (Rakantrechus elegans)：大分県の石灰洞で発見されましたが、石灰岩採掘により生息地が破壊され、絶滅が宣言されています。

和名について

「メクラ」という言葉は差別的な意味合いを持つとされ、一部の生物では和名の変更が行われました。しかし、メクラチビゴミムシに関しては、上野俊一氏が「実際の差別と言葉は無関係であり、標準和名は学名に対応しているため、変更すると混乱を招く」として改名に反対しています。そのため、2020年時点でも和名の変更は行われていません。

日本に生息する主な種類

日本には、ナガチビゴミムシ群とアトスジチビゴミムシ群の2つのグループが生息しています。

ナガチビゴミムシ群

ナガチビゴミムシ属 (Trechiama)：北海道から九州北部、淡路島、小豆島などに生息。海外では中国大陸や台湾でも確認されています。有眼種から完全な盲目種まで、多様な種が含まれます。
キイメクラチビゴミムシ属 (Kusumia)：本州の紀伊半島にのみ生息し、比較的大型の盲目種で構成されます。
ツヤメクラチビゴミムシ属 (Ishikawatrechus)：四国固有の属で、大半の種類が準絶滅危惧に指定されています。
ラカンメクラチビゴミムシ属 (Rakantrechus)：本州西端部、四国の一部、九州に分布し、5亜属から構成されます。サイカイメクラチビゴミムシ亜属 (Paratrechiama) はラカンメクラチビゴミムシ属の亜属で、九州中央部に固有です。

アトスジチビゴミムシ群

ノコメメクラチビゴミムシ属 (Stygiotrechus)：瀬戸内海周辺地域から九州北部、五島列島に生息しています。
チョウセンメクラチビゴミムシ属 (Coreoblemus)：対馬と朝鮮半島に生息。日本に生息するのはツシマメクラチビゴミムシのみで、他は朝鮮半島に生息しています。

メクラチビゴミムシ類は、日本の固有種が多く、その多様性は貴重な財産です。生息地の保護と研究の推進が、彼らの未来を守るために不可欠です。

もう一度検索