上野俊一

上野俊一：洞窟生物学の世界的権威

上野俊一（1930年12月8日 - 2020年10月3日）は、日本の昆虫学者、昆虫分類学者、動物学者であり、特に洞窟生物学の分野で多大な貢献をした人物です。大阪府茨木市出身で、父は動物学者の上野益三、妻は上野美子。

生涯

上野俊一は、1930年に大阪府茨木市で生まれました。幼少期から父親の影響で動植物に親しみ、江崎悌三や朝比奈正二郎といった昆虫学者との交流を通じて、自然科学への関心を深めました。旧制大阪府立豊中中学校時代には、関西昆虫学会のメンバーと知り合い、オサムシ・ゴミムシ類への興味を強めました。戦時中は学徒動員を経験し、厳しい生活の中で昆虫への関心を維持し続けました。

1948年に大阪薬学専門学校に入学するも、翌年には昆虫学を志して京都大学農学部に転学。内田俊郎と吉井良三の指導のもと、研究に励みました。大学在学中には、早くも最初の論文を発表しています。

研究の道へ

1949年秋、上野は地下浅層に棲む盲目チビゴミムシとの運命的な出会いを果たします。指導教官の吉井良三が採集した標本を元に、新属新種ヨシイメクラチビゴミムシを命名記載。この発見を機に、洞窟生物学の研究に没頭するようになりました。高知県や栃木県出身の同級生から情報を得て各地の洞窟を調査し、数々の新種を発見しました。

研究者として

1951年、上野は江崎や吉井らと共に日本列島全体の洞窟調査プロジェクトを開始。このプロジェクトを通じて、多くの地下性動物が採集され、そのほとんどが未記載種でした。上野はその後もチビゴミムシや洞窟性動物相の分類学的研究を継続し、多数の論文を執筆しました。1960年には京都大学大学院理学研究科博士課程を修了し、理学博士の学位を取得。

地下水性ゲンゴロウとの出会い

上野は、父である上野益三の指導のもと、地下水性動物相の研究にも携わりました。1951年には、森本義信によって発見されたゲンゴロウの標本を調査し、ムカシゲンゴロウとメクラゲンゴロウという新科新属新種を記載。これらの発見は、昆虫学界に大きな衝撃を与え、地下水性昆虫相研究の発展に貢献しました。

国立科学博物館時代

1962年、上野は国立科学博物館に就職。両生類・爬虫類担当の学芸員として勤務する傍ら、チビゴミムシや洞窟性生物の研究を続けました。1967年には、マレーシアとタイの生物相調査に参加中に交通事故に遭い負傷。その後、ハーバード大学の客員研究員として渡米し、アメリカの洞窟を調査しました。帰国後、国立科学博物館動物研究部の昆虫担当研究員に異動しました。

日本のメクラチビゴミムシ類の由来についての発見

1965年、上野は馬場金太郎からの電報をきっかけに、新生代第三紀の地層からメクラチビゴミムシの新種を発見。この発見は、メクラチビゴミムシが古生代の石灰岩層に限らず、より広い範囲に分布することを示唆しました。

研究の発展

上野はその後も研究を続け、1975年には日本洞窟学会の立ち上げに参加。1978年には『洞窟学入門 暗黒の地下世界をさぐる』を出版し、洞窟性甲虫類に関する啓蒙的記述を行いました。1985年には『原色日本甲虫図鑑 II巻』を発行し、日本の甲虫研究に大きく貢献しました。日本洞窟学会会長、国立科学博物館動物研究部昆虫第二研究室長などを歴任し、1995年に国立科学博物館を退任後も、名誉研究員として研究活動を続けました。

1990年代から2000年代にかけては、日本国内外の洞窟性・地下浅層性チビゴミムシの解明に尽力し、数々の新種を記載。2006年には国際洞窟生物学会の名誉会員に選ばれました。2011年には、最後の新種記載論文を発表し、生涯をチビゴミムシの研究に捧げました。

晩年と死

2020年10月3日、上野俊一は89歳で逝去。晩年はアルツハイマー病を患い、高齢者施設で過ごしていました。その死は、多くの研究者や関係者に悼まれました。

上野俊一は、日本の昆虫学、特に洞窟生物学の分野において、多大な貢献をした偉大な研究者でした。彼の業績は、後世に永く語り継がれることでしょう。

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