メタッロスパエラ属

メタッロスパエラ属（Metallosphaera）

メタッロスパエラ属は、高温、強酸性、そして酸素が存在する好気的な環境、具体的には陸上の熱水が湧き出る温泉地や鉱山などに生息する、特別な性質を持つ古細菌の一群です。これらの環境は多くの生命にとって過酷ですが、メタッロスパエラ属の微生物はこの極限的な条件下で生存し、活動することができます。そのため、極限環境微生物として生物学や地球化学、さらには応用分野からも注目されています。

属名の「Metallosphaera」は、その微生物の特性をよく表しています。ラテン語の「Metallum」（鉱山、金属）と「Sphaera」（球体）を組み合わせた言葉です。これは、彼らが金属を含む環境を好むこと、特に硫化金属から金属成分を遊離させる独特の能力を持つこと、そして細胞の形状がほぼ球形であることに由来しています。

特徴と生息環境

この古細菌は、主に硫化金属が豊富に存在する環境に分布しています。最初に報告されたのは1989年、イタリアのポッツォーリにある熱泥からです。その後、1996年には日本の箱根温泉や、ドイツのウラン鉱山の鉱滓からも発見されており、世界各地の類似した極限環境に広く存在していることが示唆されています。

細胞の形態は約1マイクロメートル程度の球状、あるいは薄片状を呈します。種によっては運動性のための鞭毛を持つものと、持たないものが存在します。生育条件は非常に厳格で、生命活動には酸素が不可欠な偏性好気性であり、温度は50℃から80℃という高温、pHは1から5という強い酸性条件下で最もよく増殖します。これは、彼らが好熱性（高温を好む）かつ好酸性（酸性を好む）であることを明確に示しています。

代謝機能

メタッロスパエラ属は、その栄養摂取の方法において多様性を示します。独立栄養、従属栄養、または両方を組み合わせた混合栄養のいずれかの方法で生育することができます。

独立栄養で生育する際には、主に硫黄を含む化合物を酸化してエネルギーを得ます。具体的には、硫黄（S）、硫化水素（H₂S）、四チオン酸（S₄O₆²⁻）、さらには硫化鉄（FeS₂、黄鉄鉱）や黄銅鉱（CuFeS₂）、硫化亜鉛（ZnS）といった硫化金属を酸化し、最終的に硫酸イオン（SO₄²⁻）を生成します。この過程で、硫化金属から金属成分が遊離されることが彼らの大きな特徴の一つです。また、硫黄化合物だけでなく、分子状水素（H₂）を酸化してエネルギーを獲得する能力も持っています。

従属栄養としては、酵母エキスや肉エキスのような有機物を含む培地を利用して増殖することが可能です。このように、無機物から有機物まで幅広い物質をエネルギー源や炭素源として利用できる能力が、彼らが過酷な環境で生き抜くための鍵となっています。

主な種

いくつかの代表的な種が知られています。

メタッロスパエラ・セドゥラ（Metallosphaera sedula）
1989年にイタリアで発見された、この属の基準種です。最も古くから研究されており、2008年にはその全ゲノムが解読されました。約219万塩基対からなるゲノムには、2200以上の遺伝子がコードされていることが明らかになっています。ゲノム情報から、その極限環境適応メカニズムや代謝能力の詳細が解析されています。

メタッロスパエラ・ハコネンシス（Metallosphaera hakonensis）
1996年に日本の箱根温泉から分離された種です。発見当初は同じ好熱好酸性の古細菌であるスルフォロブス属（Sulfolobus）に分類されていましたが、その後の詳細な研究により、2003年にメタッロスパエラ属へ移されました。この種は運動性のための鞭毛を持たないことが特徴の一つです。

* メタッロスパエラ・プルナエ（Metallosphaera prunae）
こちらも1996年に、ドイツのウラン鉱山の鉱滓（採掘や精錬で生じる廃棄物）から発見されました。有害な金属を含む環境に生息するこの種は、その金属耐性や金属遊離能力から、環境浄化、特に有害金属で汚染された土壌や排水の処理に応用できる可能性が研究されています。

これらの種の研究を通じて、メタッロスパエラ属は極限環境における生命活動の理解を深める上で重要なモデル生物であり、バイオテクノロジー分野における応用への期待も寄せられています。

もう一度検索