メッシーナの花嫁 (フィビフ)

メッシーナの花嫁

『メッシーナの花嫁』（チェコ語: Nevěsta messinská）は、チェコの作曲家ズデニェク・フィビフ（Zdeněk Fibich, 1850-1900）が1882年から1883年にかけて作曲した、全3幕からなるオペラ作品です。

作品概要

本作の台本は、ドイツの偉大な劇作家・詩人であるフリードリヒ・フォン・シラー（Friedrich von Schiller, 1759-1805）による同名の悲劇『メッシーナの花嫁（Die Braut von Messina）』を原作としています。シラーの戯曲は、古代ギリシャ悲劇の形式を踏襲しつつ、運命に翻弄される人間の悲哀を描いた重厚な作品であり、フィビフはこのドラマティックな素材をオペラとして再構築しました。

初演と評価

『メッシーナの花嫁』の世界初演は、作曲完成の翌年、1884年3月28日に、チェコのオペラ芸術の中心地であるプラハ国民劇場（Národní divadlo）にて行われました。この記念すべき初日の指揮は、当時のプラハで活躍した指揮者アドルフ・チェフ（Adolf Čech, 1841-1903）が務めました。

初演に対する評価は、聴衆と批評家の間で大きく分かれる結果となりました。劇場に足を運んだ一般聴衆からは、おおむね好意的な反応を得られたと伝えられています。しかし、音楽評論家の間では、この作品に対する評価は非常に厳しく、必ずしも理解されませんでした。特に、当時の楽壇で絶大な影響力を持ちつつも賛否両論の的となっていたドイツの作曲家リヒャルト・ワーグナー（Richard Wagner, 1813-1883）の音楽様式に似ていると見なされたことが、批評家が本作を受け入れなかった大きな要因の一つとされています。フィビフの作品が、当時のボヘミア音楽におけるナショナリズムの潮流や、ワーグナーへの複雑な感情の中で、どのように位置づけられるべきか、批評家たちは戸惑ったのかもしれません。結果として、批評面では正当な評価を得るには至りませんでした。

音楽と編成

本作の音楽は、シラーの悲劇が持つ重厚さ、登場人物たちの心理描写、そして避けられない運命のテーマを表現するために、フィビフが独自の音楽語法を用いて作曲しています。特に楽器編成は充実しており、色彩豊かなオーケストレーションが特徴的です。

以下に、その詳細な楽器編成を示します。

フルート3（うち1人はピッコロ持ち替え）
オーボエ2
イングリッシュホルン
クラリネット2
バスクラリネット
ファゴット2
ホルン4
チューバ
トランペット2
トロンボーン3
ティンパニ
シンバル
大太鼓
トライアングル
ハープ2
弦五部（ヴァイオリン第1部、ヴァイオリン第2部、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

登場人物

物語を彩る主要な登場人物とその声域は以下の通りです。

ドンナ・イザベラ: メッシーナの女王（アルト）
ドン・マヌエール: ドンナ・イザベラの息子（バリトン）
ドン・ツェーザル: ドンナ・イザベラの息子（テノール）
ディエゴ（バス）

演奏時間

このオペラの標準的な演奏時間は、約2時間15分程度とされています。

『メッシーナの花嫁』は、フィビフのオペラ創作における重要な作品の一つであり、当時の音楽界の潮流と作曲家の個性が交錯する興味深い位置づけにあります。

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