メルセデス・ベンツ・W140

メルセデス・ベンツ W140型 Sクラス：圧倒的な存在感と堅牢性で名を馳せた高級セダン

メルセデス・ベンツ W140型は、同社のSクラスセダンの3代目モデルとして、1991年から1998年にかけて製造されました。コードネーム「W140」で知られるこのモデルは、メルセデス・ベンツが掲げる「最善か無か」という理念を体現した、まさに同社の技術力の粋を集めた一台と言えるでしょう。

開発とデザイン：時代の転換点と批判

W140の開発は1980年代初頭に始まり、当初は1988年の発売が予定されていました。しかし、ライバルであるBMWが7シリーズにV型12気筒エンジンを搭載したことに対抗するため、設計変更を余儀なくされ、発売は1991年にずれ込みました。

先代モデルであるW126型と比較して、W140はボディサイズが大幅に拡大されました。全長で10cm、全幅で6.5cm、全高で5～6cmも大きくなり、威圧感あふれるデザインは、ヨーロッパでは「環境破壊車」と揶揄され、アメリカでも「威圧的すぎる」といった批判を浴びました。その巨体ゆえに販売台数は低迷しましたが、日本ではその存在感から高い人気を博しました。メルセデス・ベンツは、ボディ拡大の理由を「人間の平均身長の増加」と説明しています。

W140のデザインは、長年メルセデス・ベンツのデザイン部門のトップを務めたブルーノ・サッコ氏の手によるものです。しかし、サッコ氏自身は、W140のデザインが自身の理想よりも全高が約10cm高くなってしまったことを悔やんでおり、「痛恨の作」と語っています。

モデルバリエーションと名称変更：複雑な歴史

W140は、セダンとクーペ（C140）のボディタイプが設定され、セダンには標準ボディとロングボディ（V140）が存在しました。防弾仕様車「Guard」もラインナップされていました。

グレード名称は、発売当初はエンジン排気量とモデルタイプを示すアルファベット（S、E、D、L、Cなど）を組み合わせたもの（例：300SE、500SEL、600SEC）でしたが、中期モデルからは「S」+排気量（例：S320、S500L、S600クーペ）に変更されました。日本市場では、数字の「420」が不吉とされるため、「400」として販売されました。

日本市場における販売：好調な販売とモデルチェンジ

日本での販売は1991年8月に開始されました。当初は左ハンドルのみでしたが、後に右ハンドルも追加されました。1993年にはクーペモデルの600SEC（後にS600クーペに変更）も導入されました。1994年にはモデル名称の変更や装備の充実、そしてグレードの再編が行われ、日本市場においても様々なバリエーションが用意されました。1997年モデルでは、クーペモデルはCLクラスに移行し、名称が変更されました。

充実の装備と革新的な技術：快適性と安全性の追求

W140は、当時としては先進的な装備を数多く搭載していました。複層ドアガラス、オートドアクロージャー、OBD（CANプロトコル）、電動調整ルームミラーなどは、その一例です。ワイパーは、パノラマワイパーに加え、助手席側に補助ワイパーが追加されており、飛沫を抑制する工夫がなされていました。

エンジンと駆動系：様々なパワートレイン

W140には、直列6気筒、V型8気筒、そしてV型12気筒エンジンなど、様々なエンジンが搭載されました。また、ディーゼルエンジンもラインナップされていました。トランスミッションは、当初は機械式4速ATでしたが、後に電子制御5速ATに変更されました。

防弾仕様車「Guard」：要人警護の信頼

W140には、高レベルの防弾性能を持つ「Guard」モデルも存在しました。北朝鮮の金正日総書記やロシアのエリツィン大統領など、世界各国の要人が使用したことで知られています。防弾仕様車は、専用のホイール、タイヤ、強化された窓枠などの特徴を持っていました。

まとめ：時代を象徴する高級セダン

W140型Sクラスは、メルセデス・ベンツの技術力の高さ、そして「最善か無か」という理念を象徴するモデルでした。その圧倒的な存在感と堅牢な造りは、多くのファンを魅了し、時代を超えて語り継がれる名車として、今もなお高い人気を誇っています。W140は、バブル景気崩壊後の価格改定や、後継モデルW220への移行など、様々な出来事を経て、その歴史に幕を閉じました。しかし、その存在感は、多くの人の記憶に深く刻まれています。

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