メルセデス・ベンツ・W154

メルセデス・ベンツ W154：伝説のシルバーアロー

メルセデス・ベンツ W154は、ルドルフ・ウーレンハウトが設計したグランプリレーシングカーとして、1938年から1939年のグランプリシーズンを席巻しました。このマシンでルドルフ・カラツィオラは1938年ヨーロッパ選手権を制覇するなど、輝かしい戦績を残しました。

誕生の背景：レギュレーション変更への対応

W154の開発は、当時のグランプリ統括団体AIACRによるレギュレーション変更がきっかけでした。1938年、スーパーチャージャー搭載車のエンジン排気量が最大3000ccに制限されたのです。それまでメルセデスが使用していた5700ccのW125は、この新レギュレーションに適合せず、グランプリ参戦が不可能になりました。メルセデスはW125を改造するよりも、新たなマシンを開発する方が効率的と判断し、W154プロジェクトがスタートしました。

設計と性能：W125からの進化

W154の開発にあたっては、メルセデスはW125の設計をベースに改良を重ねました。シャシーはニッケルクロムモリブデン鋼の楕円鋼管を用いたチューブラーフレーム構造で、高い剛性を確保。サスペンションはW125と共通の設計思想を踏襲しており、リアにはド・ディオン式を採用していました。

エンジンは、新レギュレーションに合わせた3000ccのスーパーチャージャー付きV型12気筒エンジン（M154）を搭載。最高出力は425～474馬力に達し、5速マニュアルトランスミッションと組み合わされました。1939年には、M163エンジンへと進化し、出力向上を実現しています。特徴的なアルミ地のボディワークは、W125、W25と同様に塗装されておらず、この時代のメルセデス・マシンを象徴する「シルバーアロー」の愛称で親しまれる所以となっています。

レースでの活躍：ヨーロッパ選手権制覇

W154のデビュー戦は1938年のポーグランプリでした。このレースでは、ルドルフ・カラツィオラが好スタートを切りながらも、足の負傷悪化により、ヘルマン・ラングと交代。惜しくも2位に終わります。続くトリポリグランプリでは、3台のW154が上位独占を果たし、メルセデスの圧倒的な強さを見せつけました。

フランスグランプリでは、3台のW154がエントリー。フォン・ブラウヒッチュが優勝し、メルセデスの優位性が改めて示されました。続くドイツグランプリでは、リチャード・シーマンが優勝。W154は、その高い性能と信頼性を証明しました。

1939年シーズンもW154は活躍を続けましたが、ボディワークの変更やエンジンの改良（M163への換装）が加えられています。このため、しばしばW163と誤記されることもありますが、正式名称はW154です。

戦後とインディ500：新たな舞台へ

第二次世界大戦後、W154はアメリカへと渡り、インディ500に参戦することになります。1947年から1957年にかけて、幾度となくインディ500に参戦。様々なドライバーやチームによって、改良が加えられたり、エンジンが換装されたりしながらも、その歴史は刻まれました。しかし、メルセデス・ベンツによるワークス参戦は実現せず、W154のインディ500での歴史は1957年に幕を閉じます。

まとめ

メルセデス・ベンツ W154は、時代のレギュレーション変化に対応し、高い性能と信頼性を備えた名車として、グランプリの歴史にその名を刻みました。W125から受け継いだ技術と革新的なアイデアが融合したW154は、レース史に残る一台と言えるでしょう。 ヨーロッパ選手権制覇、数々のグランプリでの勝利、そしてインディ500への挑戦と、W154の活躍は、その存在感を今なお輝かせ続けています。その歴史と性能は、今もなお多くのモータースポーツファンを魅了し続けています。

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