シルバーアロー

シルバーアロー：伝説の銀の矢の軌跡

1930年代、ヨーロッパの自動車レース界を席巻したメルセデス・ベンツとアウトウニオンのレーシングカー。それらは、その銀色の車体から「シルバーアロー(Silver Arrows)」と呼ばれ、伝説となりました。本稿では、その誕生から現代まで続く歴史を紐解きます。

ナショナルカラーとシルバーアローの誕生

自動車レース黎明期、各国はナショナルカラーを車両に施すのが慣例でした。ドイツは白でしたが、1934年、メルセデス・ベンツは新型車W25を発表。アルミニウムの素材そのままの銀色のボディは、初戦を圧勝。この勝利が、シルバーアロー誕生の瞬間でした。

同年、アウトウニオンもレース界に参戦。メルセデス・ベンツと並んで活躍した両社の銀色のマシンは、その圧倒的な速さから「シルバーアロー」の愛称で呼ばれるようになり、やがてシルバーはドイツのレースカラーとして定着しました。

伝説の起源：重量超過と塗装剥がし？

シルバーアローの起源に関する最も有名な逸話として、1934年アイフェルレンネンの出来事が語られています。当時の国際規定では、車両重量は750kg以下に制限されていました。メルセデス・ベンツのW25は、規定重量をクリアするために白い塗装を剥がした、というものです。

しかし、この逸話については、さまざまな議論が巻き起こりました。重量超過の原因はブレーキフルードの不足か、現地での改良によるものか、あるいはそもそも重量制限が適用されないレースだったのか、複数の説が提示されています。さらに、白い塗装のW25の写真が存在しないことなど、疑問視する声も上がりました。

近年、当時の写真が発見され、アイフェルレンネンの練習走行では白いW25が走っていたことが確認されました。しかし、決勝レースでは銀色に変わっており、塗装剥がし説を裏付ける証拠とも言えます。現在では、複数の証言や写真から、この逸話の詳細や真偽は完全に解明されていないものの、重量制限クリアのための戦略として、塗装剥がしが行われた可能性も否定できません。

W25以前の「シルバーアロー」

興味深いのは、W25以前にも「シルバーアロー」と呼ばれるメルセデス・ベンツ車が存在したことです。1932年アヴスレンネンで、マンフレート・フォン・ブラウヒッチュが駆るSSKLは、ラジオ実況で「Silbernen Pfeil(銀の矢)」と呼ばれました。これは、W25以前の「シルバーアロー」の例として知られています。

アウトウニオンと「シルバーアロー」

1930年代、アウトウニオンのレーシングカーも「シルバーアロー」と呼ばれていましたが、区別のため「シルバーフィッシュ」と呼ばれることもありました。第二次世界大戦後、アウトウニオンはアウディとなり、「シルバーアロー」の商標はメルセデス・ベンツに譲渡されました。

代表的なシルバーアロー

メルセデス・ベンツのレース活動において、多くの銀色のレーシングカーが「シルバーアロー」と呼ばれてきました。代表的なモデルとしては、W25、W125、W154、W196、300SLRなどがあります。1980年代以降も、グループCカーやF1マシンなど、銀色のマシンが活躍し、「シルバーアロー」の名を受け継いでいます。

まとめ

「シルバーアロー」は、単なるレーシングカーの愛称を超え、メルセデス・ベンツの伝統と技術力を象徴する存在です。その起源や歴史には謎めいた部分も残っていますが、数々の伝説と共に、これからもその名は語り継がれていくでしょう。

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