メンチュヘテプ2世
メンチュヘテプ2世（Mentuhotep II）は、紀元前2060年頃から紀元前2010年頃まで古代エジプトを統治した第11王朝の第4代ファラオです。彼の治世は、約150年にわたる分裂と混乱の時代である第一中間期に終止符を打ち、エジプトを再び一つの国としてまとめ上げ、続く中王国時代の幕開けを飾る画期的なものでした。
メンチュヘテプ2世が父王アンテフ3世から王位を継いだ頃、エジプトは名目上の中央政府（メンフィス）の権威が失われ、各地の有力な州侯たちが自立し、覇権を争う内乱状態にありました。特に、上エジプトのヘラクレオポリスに拠点を置く第10王朝は強大な勢力を誇り、一時は全土を影響下に置くほどでした。
これに対し、メンチュヘテプ2世の祖父であるアンテフ2世の時代には、第11王朝の本拠地であるテーベも勢力を拡大し、南はヒエラコンポリスからエレファンティネまで、北は第10王朝との境界をアビドスのある第8県まで押し上げていました。その後、両勢力の間には一時的な休戦が成立し、メンチュヘテプ2世が即位するまでは緊張状態が続いていました。
和平が破られたのは、メンチュヘテプ2世の治世14年目のことでした。アビドスで発生した反乱を機に、テーベとヘラクレオポリスの間で再び戦闘が始まりました。メンチュヘテプ2世は迅速に反乱を鎮圧すると、迷わず北方の第10王朝の領域へと攻め入りました。戦いはテーベ側が優位に進み、特に上エジプト第15県のヘルモポリスをはじめとする多くの州侯がテーベに寝返ったことで、戦況は決定的なものとなりました。治世21年目（紀元前2040年頃）には、第10王朝の本拠地であるヘラクレオポリスを陥落させ、さらに治世39年頃には第10王朝の最後の王を破り、エジプト全土の再統一を達成しました。この偉業をもって、エジプトの第一中間期は終わりを告げ、新たな繁栄期である中王国時代が始まったのです。
メンチュヘテプ2世のエジプト再統一という輝かしい功績は、彼の治世中に幾度となく変更されたホルス名に象徴的に表れています。即位当初は「両国の心を生かす者」を意味するスアンクイブタウィと名乗りました。しかし、戦いが始まった治世14年目以降は、テーベを含む上エジプトの王権を示す「白冠の主」を意味するネチェルヘジェトという名に改めました。そして、エジプト全土を完全に掌握した治世39年目以降は、「両国の統合者」を意味するスマタウィとなり、統一王としての地位を確立しました。
全土を統一したメンチュヘテプ2世の治世後半は、長年の内戦で疲弊したエジプトを復興し、繁栄を取り戻すための国家事業に注がれました。彼は古王国時代からの伝統的な官職である上エジプト長官などを復活させ、さらに新たに下エジプト長官を設置するなど、行政機構の再編・強化を進めました。かつて敵対した州侯は権力を剥奪して信頼できる人物に置き換える一方、戦いの過程でテーベ側に味方したヘルモポリス侯などの有力な州侯に対しては、それまでの待遇を維持するなど、現実的な統治を行いました。
国内の統治と並行して、メンチュヘテプ2世は対外的な軍事活動も積極的に展開しました。南方への遠征では、ナイル川の第二瀑布周辺の下ヌビア地域まで進出してこれを支配下に置き、さらに南方にあるプント国（現在のソマリア地方にあたると考えられています）へ交易のための隊商を派遣しました。西方の砂漠地帯にも遠征を行い、オアシスを拠点とするリビア人を制圧するなど、周辺地域への影響力も拡大しました。
国土の再統一によって、各地の豊富な採石場から質の高い建材が再び供給されるようになり、エジプトでは古王国時代のような大規模な建築事業が再び可能となりました。テーベの優れた職人に加えて、全国から職人たちが集められ、建築技術や芸術が大きく振興されました。中でも、テーベの西、現在のデル・エル・バハリと呼ばれる断崖の窪地に建設されたメンチュヘテプ2世の葬祭殿は、当時の建築技術と芸術の粋を集めた最も有名な建造物です。この壮麗な葬祭殿の周囲には、宰相ケティ（アクトイ）、大臣ダギ、大臣アピ、侍従長ネヌなど、メンチュヘテプ2世に仕えた重要な家臣たちの墓も造営されました。特に大臣ダギの墓からは、棺に記された呪文であるコフィン・テキストが発見されており、古王国時代のピラミッド・テキストとの関連性が指摘されています。
紀元前2010年、メンチュヘテプ2世は50年間に及ぶ治世を終えて亡くなり、息子のメンチュヘテプ3世がその後を継ぎました。彼が成し遂げた国家統一は、後継者たちによって引き継がれ、続く第13王朝の半ば頃まで、およそ3世紀にわたる平和と繁栄の時代をエジプトにもたらす基礎となりました。メンチュヘテプ2世は、混迷の時代を終わらせ、エジプトを再び統合し、新たな黄金時代を切り開いた偉大な王として、歴史にその名を刻んでいます。
分裂の時代と統一への道のり
メンチュヘテプ2世が父王アンテフ3世から王位を継いだ頃、エジプトは名目上の中央政府（メンフィス）の権威が失われ、各地の有力な州侯たちが自立し、覇権を争う内乱状態にありました。特に、上エジプトのヘラクレオポリスに拠点を置く第10王朝は強大な勢力を誇り、一時は全土を影響下に置くほどでした。
これに対し、メンチュヘテプ2世の祖父であるアンテフ2世の時代には、第11王朝の本拠地であるテーベも勢力を拡大し、南はヒエラコンポリスからエレファンティネまで、北は第10王朝との境界をアビドスのある第8県まで押し上げていました。その後、両勢力の間には一時的な休戦が成立し、メンチュヘテプ2世が即位するまでは緊張状態が続いていました。
和平が破られたのは、メンチュヘテプ2世の治世14年目のことでした。アビドスで発生した反乱を機に、テーベとヘラクレオポリスの間で再び戦闘が始まりました。メンチュヘテプ2世は迅速に反乱を鎮圧すると、迷わず北方の第10王朝の領域へと攻め入りました。戦いはテーベ側が優位に進み、特に上エジプト第15県のヘルモポリスをはじめとする多くの州侯がテーベに寝返ったことで、戦況は決定的なものとなりました。治世21年目（紀元前2040年頃）には、第10王朝の本拠地であるヘラクレオポリスを陥落させ、さらに治世39年頃には第10王朝の最後の王を破り、エジプト全土の再統一を達成しました。この偉業をもって、エジプトの第一中間期は終わりを告げ、新たな繁栄期である中王国時代が始まったのです。
統一を示すホルス名の変遷
メンチュヘテプ2世のエジプト再統一という輝かしい功績は、彼の治世中に幾度となく変更されたホルス名に象徴的に表れています。即位当初は「両国の心を生かす者」を意味するスアンクイブタウィと名乗りました。しかし、戦いが始まった治世14年目以降は、テーベを含む上エジプトの王権を示す「白冠の主」を意味するネチェルヘジェトという名に改めました。そして、エジプト全土を完全に掌握した治世39年目以降は、「両国の統合者」を意味するスマタウィとなり、統一王としての地位を確立しました。
国の再建と行政の確立
全土を統一したメンチュヘテプ2世の治世後半は、長年の内戦で疲弊したエジプトを復興し、繁栄を取り戻すための国家事業に注がれました。彼は古王国時代からの伝統的な官職である上エジプト長官などを復活させ、さらに新たに下エジプト長官を設置するなど、行政機構の再編・強化を進めました。かつて敵対した州侯は権力を剥奪して信頼できる人物に置き換える一方、戦いの過程でテーベ側に味方したヘルモポリス侯などの有力な州侯に対しては、それまでの待遇を維持するなど、現実的な統治を行いました。
外征と影響力の拡大
国内の統治と並行して、メンチュヘテプ2世は対外的な軍事活動も積極的に展開しました。南方への遠征では、ナイル川の第二瀑布周辺の下ヌビア地域まで進出してこれを支配下に置き、さらに南方にあるプント国（現在のソマリア地方にあたると考えられています）へ交易のための隊商を派遣しました。西方の砂漠地帯にも遠征を行い、オアシスを拠点とするリビア人を制圧するなど、周辺地域への影響力も拡大しました。
文化と建築の復興
国土の再統一によって、各地の豊富な採石場から質の高い建材が再び供給されるようになり、エジプトでは古王国時代のような大規模な建築事業が再び可能となりました。テーベの優れた職人に加えて、全国から職人たちが集められ、建築技術や芸術が大きく振興されました。中でも、テーベの西、現在のデル・エル・バハリと呼ばれる断崖の窪地に建設されたメンチュヘテプ2世の葬祭殿は、当時の建築技術と芸術の粋を集めた最も有名な建造物です。この壮麗な葬祭殿の周囲には、宰相ケティ（アクトイ）、大臣ダギ、大臣アピ、侍従長ネヌなど、メンチュヘテプ2世に仕えた重要な家臣たちの墓も造営されました。特に大臣ダギの墓からは、棺に記された呪文であるコフィン・テキストが発見されており、古王国時代のピラミッド・テキストとの関連性が指摘されています。
紀元前2010年、メンチュヘテプ2世は50年間に及ぶ治世を終えて亡くなり、息子のメンチュヘテプ3世がその後を継ぎました。彼が成し遂げた国家統一は、後継者たちによって引き継がれ、続く第13王朝の半ば頃まで、およそ3世紀にわたる平和と繁栄の時代をエジプトにもたらす基礎となりました。メンチュヘテプ2世は、混迷の時代を終わらせ、エジプトを再び統合し、新たな黄金時代を切り開いた偉大な王として、歴史にその名を刻んでいます。
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