メンチュヘテプ4世

メンチュヘテプ4世は、古代エジプト新王国時代のトゥトモス3世王名表やアビュドスの王名表など、後世の公式な王名表において、第11王朝の末期がメンチュヘテプ3世で締めくくられ、その後7年間の空位期間が置かれたとされるなど、その存在が意図的に、あるいは結果的に抹消されている傾向にあります。

その治世は紀元前1998年から紀元前1991年に及んだと推定されていますが、彼に関する同時代の史料は極めて限定的です。彼の名が刻まれた遺物としてわずかに知られているのは、後の第12王朝初代王アメンエムハト1世の治世に作られたと考えられる容器の破片程度であり、その実像を掴むことは非常に困難です。

しかし、彼の治世を知る上で最も重要な手掛かりとなるのが、東部砂漠にあるワディ・ハンママートに残された碑文です。この碑文には、当時の宰相であり上エジプト総督でもあった人物の名前が「アメンエムハト」であったことが記されています。このアメンエムハトは、ファラオであるメンチュヘテプ4世の石棺の製作に用いる石材をナイル川東岸の採石場から運び出すため、軍隊を率いてワディ・ハンママートへと遠征したことが記録されています。

この碑文に登場する宰相アメンエムハトと、続く第12王朝の創始者であるアメンエムハト1世が同一人物である可能性は、今日の研究者の間では極めて高いと考えられています。もし両者が同一人物であれば、ワディ・ハンママートへの遠征は、宰相アメンエムハトが石材採集を名目に軍事力を動員し、その兵力を背景にメンチュヘテプ4世に対してクーデターを起こし、王位を奪ったというシナリオが現実味を帯びてきます。メンチュヘテプ4世がどのようにして王位を失ったのか、そしてその後の消息は不明ですが、有力説として彼がこのクーデターによって廃位されたものと推定されています。

メンチュヘテプ4世の治世をもって、古代エジプト第11王朝は終焉を迎えました。この王朝は、メンチュヘテプ2世が分断されていたエジプトを再び統一して以来、わずか30年足らずの期間しか独立した王朝としての形を保てませんでしたが、テーベに根差した王権の系譜は、宰相アメンエムハトによって創始されたエジプト第12王朝へと引き継がれていくことになります。メンチュヘテプ4世の存在は歴史の表舞台から消え去ったものの、彼の時代の終焉は、古代エジプトが中王国時代へと移行する重要な転換点となったのです。

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