モア (アルバム)

『モア』（原題：Soundtrack from the Film More）は、イギリスのロックバンド、ピンク・フロイドが1969年に発表したアルバムです。この作品は、バーベット・シュローダー監督の映画『モア』のサウンドトラックとして制作されました。

制作の背景

ピンク・フロイドは当時、映画音楽の制作に強い関心を持っていました。その以前には、ピーター・サイクス監督の映画『The Committee』に楽曲を提供した経験があり、本作はその流れを汲むものです。映画音楽への挑戦は、バンドの音楽性をさらに広げるきっかけとなりました。

本作の制作期間はわずか8日間という短期間で、既にコンサートで披露していた楽曲の一部も流用されています。バンド自身がプロデュースを手掛けたことも特筆すべき点です。当時、レコード会社のプロデューサーがアルバム制作を主導するのが一般的だった音楽業界において、デビューから3作目でセルフ・プロデュースが許可されたのは異例のことでした。

音楽的な特徴

アルバムは全13曲で構成されており、そのうち5曲がインストゥルメンタルです。後のピンク・フロイドのアルバムと比較すると、ボーカル曲の比重が高くなっています。「グリーン・イズ・ザ・カラー」は、デヴィッド・ギルモアが囁くように歌うフォーク調のナンバーで、ライブでは「ユージン、斧に気をつけろ」と続けて演奏されることがありました。「シンバライン」は、中間部分でリック・ライトによる「ターキッシュ・ディライト風」のキーボードソロがフィーチャーされており、聴きどころの一つとなっています。これらの楽曲は、1971年末までライブの定番レパートリーとして演奏されました。

映画『ラ・ヴァレ』との関連

『モア』発表から3年後の1972年、ピンク・フロイドは再びバーベット・シュローダー監督の映画音楽を担当しました。それが映画『ラ・ヴァレ』のサウンドトラックである『雲の影』です。この作品もまた、ピンク・フロイドの音楽的多様性を示すものとして評価されています。

収録曲

サイド1

1. サイラス・マイナー - "Cirrus Minor" (ウォーターズ)
2. ナイルの歌 - "The Nile Song" (ウォーターズ)
3. 嘆きの歌 - "Crying Song" (ウォーターズ)
4. アップ・ザ・キーバー - "Up The Khyber" (ライト、メイスン)
5. グリーン・イズ・ザ・カラー - "Green Is The Colour" (ウォーターズ)
6. シンバライン - "Cymbaline" (ウォーターズ)
7. パーティの情景 - "Party Sequence" (ウォーターズ、ライト、メイスン、ギルモア)

サイド2

1. 『モア』の主題 - "Main Theme" (ウォーターズ、ライト、メイスン、ギルモア)
2. イビザ・バー - "Ibiza Bar" (ウォーターズ、ライト、メイスン、ギルモア)
3. 『モア』のブルース - "More Blues" (ウォーターズ、ライト、メイスン、ギルモア)
4. クイックシルヴァー - "Quicksilver" (ウォーターズ、ライト、メイスン、ギルモア)
5. スペイン風小曲 - "A Spanish Piece" (ギルモア)
6. 感動のテーマ - "Dramatic Theme" (ウォーターズ、ライト、メイスン、ギルモア)

参加メンバー

ピンク・フロイド

デヴィッド・ギルモア (David Gilmour) - リード・ボーカル、ギター、パーカッション
ロジャー・ウォーターズ (Roger Waters) - ベース、テープ・エフェクト、パーカッション
リチャード・ライト (Richard Wright) - キーボード、ヴィブラフォン、バック・ボーカル
ニック・メイスン (Nick Mason) - ドラム、パーカッション

追加メンバー

リンディ・メイスン (Lindy Mason) - ティン・ホイッスル
ブライアン・ハンフリーズ (Brian Humphries) - エンジニア
* ヒプノシス (Hipgnosis) - スリーヴ・デザイン

『モア』は、ピンク・フロイドの音楽的な実験精神と映画音楽への挑戦が結実した作品と言えるでしょう。

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