モウセンゴケ属

モウセンゴケ属（Drosera）とは

モウセンゴケ属（学名：Drosera）は、モウセンゴケ科に属する食虫植物のグループです。湿原などの栄養の乏しい環境に適応し、葉に生えた腺毛から粘液を分泌して昆虫を捕獲し、栄養源としています。

特徴

形態:
多くは多年草ですが、一部に一年草も存在します。
地下部は短い根を持つものから、長く伸びる根や肥大した地下茎を持つものまで多様です。
花は総状花序で、未熟なときは先端が渦巻き状になることが多いです。
葉はさじ形や倒卵形で、縁や表面に腺毛が生えています。
腺毛と粘液:
腺毛の先端は粘液で覆われており、昆虫などの小動物を捕らえます。
捕獲した獲物を包み込むように、腺毛や葉が動く傾性運動を行います。
消化酵素を分泌し、獲物を分解・吸収します。

生態

モウセンゴケ属は、土壌が酸性で栄養分が少ない湿原などの環境に生育しています。地上部の形態には、主に以下の3つのタイプがあります。

1. 根生葉型: 根元から葉を出し、花茎を伸ばすタイプ。ロゼット状になるものや葉が立ち上がるものがあります。例：モウセンゴケ、コモウセンゴケ
2. 茎生葉型: 茎が立ち上がり、そこに沿って葉をつけるタイプ。例：イシモチソウ、ナガバノイシモチソウ。海外には、茎が長く伸びるものもあります。
3. 鹿角状葉型: 長い葉柄の先に鹿の角のように切れ込んだ葉をつけるタイプ。オーストラリアに多く見られます。

葉のメカニズムと捕獲

腺毛の構造: 成熟した葉には腺毛が密生しており、先端から粘液と消化酵素を分泌します。表面はクチクラ層で覆われ、自己消化を防いでいます。
傾性運動: 腺毛の先端の細胞が刺激を受けると電位差が生じ、細胞の膨圧が変化して腺毛や葉が湾曲します。同時に、植物ホルモンであるオーキシンの作用により、細胞が急速に伸長します。
消化と吸収: 腺毛は10～15分、葉身は15～20分で湾曲を終え、獲物を包み込みます。その後、分泌液と消化酵素を分泌し、獲物を分解して吸収します。モウセンゴケは、タンパク質やアミノ酸に強く反応することが確認されています。

分布と分類

モウセンゴケ属は、南極大陸を除く全世界に分布しており、約170種以上が知られています。特にオーストラリアには半数近くの種が生息しています。

日本のモウセンゴケ属

日本には、北海道から南西諸島まで、湿原や湿地に7種ほどが自生しています。

モウセンゴケ (Drosera rotundifolia L.)
ナガバノモウセンゴケ (Drosera anglica Huds.)
ナガバノイシモチソウ (Drosera indica L. f. albiflora Makino)
アカバナナガバノイシモチソウ (Drosera toyoakensis M.Watanabe) ※2013年命名
シロバナナガバノイシモチソウ (Drosera makinoi)
イシモチソウ (Drosera lunata Thunb.)
コモウセンゴケ (Drosera spatulata Labill.)
トウカイコモウセンゴケ (Drosera tokaiensis (Komiya et C.Shibata) T.Nakam. et K.Ueda)
サジバモウセンゴケ (Drosera x obovata Mert. et Koch) ※モウセンゴケとナガバノモウセンゴケの自然雑種

海外の主な種

サスマタモウセンゴケ (Drosera binata Labill.)
クルマバモウセンゴケ (Drosera burmannii Vahl)
ヨツマタモウセンゴケ (Drosera pedata Pers.)

利用

モウセンゴケ属は、薬用や観賞用として利用されています。近年、特定外来生物に指定された種があるため、輸入には証明書が必要となる場合があります。

昆虫とのかかわり

モウセンゴケの花が閉じるのは、モウセンゴケトリバという蛾による食害を防ぐためと考えられています。
アメリカモウセンゴケの周りでは、クモが餌を奪い合う行動が確認されています。

ダーウィンの研究

チャールズ・ダーウィンはモウセンゴケを研究し、その捕虫メカニズムや消化能力に注目しました。特に、タンパク質やアミノ酸に対して強い反応を示すことを確認しました。

参考文献

近藤勝彦、近藤誠宏『カラー版 食虫植物図鑑』家の光協会 2006年
佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他『日本の野生植物　草本II 離弁花類』(1982)平凡社
田辺直樹『育て方がよくわかる　世界の食虫植物図鑑』日本文芸社、2020年
Drosera of the World, 3 volumes.By Alastair Robinson et.al., Redfern Natural History Productions, 2017.

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